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「泉ちゃん?」
インターフォンのモニターには綾瀬泉が映し出されていた。時刻は十九時半、一人で帰すにはもう遅い時間だろうか。だからといって部屋にあげてもいいのか。女子高生となった泉に対し、悠真にも多少の気遣いがあった。
「今開けるから、ちょっと待って」
(心配をかけないよう綾瀬さんに連絡しておこう)
泉は、綾瀬学の一人娘だ。職場のバーベキューやキャンプで顔を合わせたときは一緒に遊んだこともある。しかしそれも数年前の、泉がまだ小学生だったころの話だ。
(俺に何の用があるんだ?)
休日に、しかも自宅を行き来するような間柄では決してない。
(ここの住所、どうやって調べた?)
父親の綾瀬にだって引越し先を知らせるのは、今がはじめてだ。悠真は綾瀬へ、メッセージとともにマンションの位置情報を送る。
【申し訳ない。すぐに迎えに行く】
当惑しているような綾瀬からの返信が届いた。
泉の目的はまったく分からない。ともかく理由は――。
「お邪魔します」
本人の口から聞かせてもらうしかない。
「どうぞ。あがって」
ところが、泉は厳しい目で悠真を睨みつけてきた。
「何か飲む?」
「いりません」
泉をリビングのソファーに座らせ時計を確認する。二十分もすれば綾瀬は到着するだろう。それまでなんとか間を持たせねばならない。悠真は会話のきっかけを探す。
「ええと、どうかし」
「小山先生はどこですか?」
ストレートな質問に悠真は一瞬たじろぐものの、泉が遥の生徒だったことを思えば不思議ではない。
父親にそっくりな、前髪の下からのぞく黒目が大きな瞳。私服だからだろうか。高校生にしては大人びて――。
(大人、というよりは、奇抜、というべきか)
レトロなフォントで『天然少女』とプリントされたTシャツに七十年代風シルエットのパンツ。ヴィンテージ風ファッション。
「久我さん、教えて下さい。先生はどこですか?」
以前、珍しく泉と担任の相性がいい、そう綾瀬から聞かされたことがある。講演会の代理を引き受けたころの話だ。泉は、行方が知れない遥のことを心配してここにやってきたのかもしれない。
(遥は良い先生だったんだな)
「ごめん。俺も捜しているところなんだ」
ひどく申し訳ない気持ちになり、悠真は唇を噛んだ。
「久我さんが先生を殺してどこかに隠しているんですか?」
「え?」
「探偵が父に会いに来ました。先生が生命保険に入っていて受取人は久我さんだって。どういうことですか? 分かるように説明してください」
(探偵? 宮本?)
宮本の大胆な行動に驚く。
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