02沈黙する狂気

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「久我さん、先生はどこですか?」 「本当に知らないんだ」  思考を巡らせるうちに、油断する。 「正直に答えてください」  突如として泉はショルダーバッグからスプレー缶を取り出し、悠真に向けて構えた。その表情は殺気立っている。 「泉ちゃん?」 「これ、すごい威力なんですよ。痴漢に噴射したら苦しそうにのたうちまわっていました。久我さんも苦しいのは嫌ですよね? だったら早く、本当のことを教えて下さい」  どうやら泉の手にあるのは催涙スプレーのようだ。 (俺を脅しているのか)  悠真もとうぜんながら混乱していた。たとえば、宮本がとんでもないことを吹き込んだとして、泉がなにに激怒しているのか想像もつかない。 「落ち着いて。何か誤解があると思う」 「誤解じゃありません。小山先生がどこにいるか訊いているんです。苦しい思いしたくありませんよね? 女子高生に乱暴したなんてネットニュースにのりたくありませんよね?」  興奮しているせいだろう、顔が上気している。 (乱暴? そっちこそ過剰防衛だろ)  荒い息遣いが聴こえる。  攻撃する側の泉のほうが苦しそうだ。本当はこんなことしたくないのかもしれない。 (そろそろ俺のターンだ) 「やりたければ、やればいい」  そう口にしたとたん、喉がぎゅっと詰まる感覚に吐き気を覚える。 (一時的な苦しみなら、いつか逃れられる) 「やれば?」  するとスプレーを構える泉の手が震えだす。今ならなんとかなるかもしれない。押さえつけてスプレーを奪い取るか。いや、乱暴はしたくない。相手は女の子だ。  悠真はあえて淡々と告げた。 「泉ちゃん、もうすぐ綾瀬さんが、君のお父さんが到着する。それはしまって」  泉は顔色を変えると、泣きそうな声で懇願する。 「お願い。お父さんには言わないでください」 「わかった」  スマホには綾瀬が到着したことを知らせるメッセージ。悠真は、自室の部屋番号を返す。 (助かった)
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