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自宅に向かう電車の中で百合子からのメールに気づく。
『さっきはごめんなさい。お母さんは悠真に幸せになってほしいと思ってる』
(俺が幸せになるために遥が必要なんだ)
しかし、返信はしなかった。悠真は自分の子供っぽさに嫌気が差した。少し冷静になろうと、百合子の話を改めて振り返る。
遥は誰かのために生命保険に加入した。
世話になった人とは誰だろう?
恩返しとはどういう意味だろう?
(遥に会いたい)
遥は何をしようとしていたのだろう。どうして悠真に何も言ってくれなかったのだろう。なぜ、一人で百合子に会いに行ったのだろう。
ため息が漏れる。
悠真は『コトノハ』を開く。
疲れたとき、現実を忘れたいとき、心を整えたいとき――。
そんなとき、難しい言葉はいらないのかもしれない。
harukaの『私を見つけて抱きしめて』は今夜の気分にしっくりときた。
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お揃いのマグカップ、お揃いのスリッパ、二人の物で溢れた部屋。
いつも一緒にいたいと言った君は正しかった。
いつも一緒にいることで、私たちはお互いをもっともっと好きになれたから。だけど嫌なところもほんの少し増えてしまった。
君は正しかった。だけど間違った。正しいと間違いは背中合わせ。君にとっての正しいが誰かにとって間違いなこともあるというだけ。
君の正しいが私の間違いだったとしても、私は君を許すと思う。
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今日はいつもより哲学的だ、悠真はくすりと笑う。
(もしかすると遥は)
自分の代わりに百合子の過去を許そうとしてくれたのかもしれない。そして、悠真の後悔も――。
名無し【許してくれてありがとう】
コメント欄を見つけた悠真は宛のないメッセージを送り、そっとアプリを閉じた。
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