01過去からのシグナル

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 悠真はなんとか作品を閉じる。実際は行きつ戻りつ、何度かページを見返してしまった。コメディかと思えばシリアス。正式なジャンルはなんだろう。 (月曜日の悪魔、か)  作者のプロフィールを確認するが、何の情報も記載されていなかった。 (続きが気になるな)  だとしても今は読書をしている場合じゃない。 「よし。俺は俺の仕事をしよう」  そこで再び『私を見つけて抱きしめて』に戻るも、さらに内容が理解できずに困惑する。 「無駄骨かも」  悠真は流し読みしながらページをめくっていく。遥が書いたという証拠を見つけるのは難しそうだ。あきらめはじめた頃に最終ページにさしかかる。そこである一行が目に飛び込んできた。 ==========  私が失ったものは取り戻せない。だけど君と一緒に未来を手にすることはできる。 ==========  これは――。  既視感を覚えた。 「そんな重たい本を持ち歩いて平気?」 「私の人生のバイブルなの」  遥はときおり愛読書をリュックに入れてでかけた。気候の良い日は公園にレジャーシートを敷いて読書を楽しむ。悠真は隣で昼寝をしていた。 「何度も読んでいるから、台詞も覚えちゃった」  キッチンでパスタを茹でながら、悠真の肩にもたれながら、それからベッドの上で目を閉じる前に。暗唱している遥の姿が浮かび上がる。繰り返し聞いた『情熱が燃え尽きる前に』の一文を、悠真も口にした。 「すべてを失った君がすべきことは、僕との未来を手に入れる、それだけだ」  悠真がおそるおそる遥の髪を撫でたとき、「一番印象に残っている台詞だから」と静かに微笑んだはずだ。 「そんなの、できすぎてるだろ」  偶然、似てしまっただけかもしれない。 (もしくは、遥なのか?)  それでも悠真は、自分だけが(もや)の中にいるようで、焦りと不安を募らせた。
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