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悠真はなんとか作品を閉じる。実際は行きつ戻りつ、何度かページを見返してしまった。コメディかと思えばシリアス。正式なジャンルはなんだろう。
(月曜日の悪魔、か)
作者のプロフィールを確認するが、何の情報も記載されていなかった。
(続きが気になるな)
だとしても今は読書をしている場合じゃない。
「よし。俺は俺の仕事をしよう」
そこで再び『私を見つけて抱きしめて』に戻るも、さらに内容が理解できずに困惑する。
「無駄骨かも」
悠真は流し読みしながらページをめくっていく。遥が書いたという証拠を見つけるのは難しそうだ。あきらめはじめた頃に最終ページにさしかかる。そこである一行が目に飛び込んできた。
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私が失ったものは取り戻せない。だけど君と一緒に未来を手にすることはできる。
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これは――。
既視感を覚えた。
「そんな重たい本を持ち歩いて平気?」
「私の人生のバイブルなの」
遥はときおり愛読書をリュックに入れてでかけた。気候の良い日は公園にレジャーシートを敷いて読書を楽しむ。悠真は隣で昼寝をしていた。
「何度も読んでいるから、台詞も覚えちゃった」
キッチンでパスタを茹でながら、悠真の肩にもたれながら、それからベッドの上で目を閉じる前に。暗唱している遥の姿が浮かび上がる。繰り返し聞いた『情熱が燃え尽きる前に』の一文を、悠真も口にした。
「すべてを失った君がすべきことは、僕との未来を手に入れる、それだけだ」
悠真がおそるおそる遥の髪を撫でたとき、「一番印象に残っている台詞だから」と静かに微笑んだはずだ。
「そんなの、できすぎてるだろ」
偶然、似てしまっただけかもしれない。
(もしくは、遥なのか?)
それでも悠真は、自分だけが靄の中にいるようで、焦りと不安を募らせた。
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