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00誰も知らないラストへ
傘立てに傘は一本しかない。私は傘を持っていないから。
私が傘を持たないのは、君の傘に入れてもらうため。大きめの傘を私のほうへ余計に傾けてくれる、君のやさしさに触れるため。
私はナチュラルに正しい君を尊敬し、そんな君と釣り合いたくて、君の前ではいつも少しだけお姉さんの顔をしてしまう。
本当の私はもっと子供っぽいの。本当の私は君がこちらを向かないとちょっと寂しい。本当の私はなかなかめんどうだ。
君だって完璧じゃない。君の良くないところは……、几帳面でわりと頑固なところ。無口でサービス精神の足りないところ。仕事に夢中になって食事を忘れるところ。君のことよく分かっているでしょう?
でも安心して。君に良くないところがあっても、私は君を嫌いになったりしない。
君は――、君は驚くかもしれない。私が君と暮らす部屋を出たと知ったとき。
まだ、小雨はやまない。傘のない私は濡れてしまう。
濡れた体が冷えていく。私は震える体をさする。何度もさする。
君は私を捜すでしょう。私が消えた理由を探すでしょう。
どうか、どうか。
君の情熱が燃え尽きる前に、私を見つけてだき
───……・・・
東京メトロ東西線の西江戸川駅ホームに急ブレーキ音が響き渡った。さらに耳をつんざく長い警笛と甲高い悲鳴。
ホームに立つ人々は青ざめ、電車内の乗客たちは状況が分からず騒然となる。
「お客様にお知らせいたします。ただいま線路内に人が立ち入った影響により、電車は急停止いたしました。お急ぎのところ、大変ご迷惑をおかけいたします。今しばらくお待ち下さい。繰り返します。ただいま線路内に……」
ラッシュ時、人で埋め尽くされた駅構内。苛立ちや焦燥感が熱気となり立ち昇る。
#オワタ
#月曜日恒例
#勘弁してくれ
昂ぶる集団心理に駅員たちでさえ恐怖するのだ。それでも彼らの一人が懸命に叫ぶ。
「撮影はおやめください。撮影はお控えください」
スマホを片手に白線を越えたのは、人の形をした悪魔なのかもしれない――。
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