対策会議

1/1
36人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ

対策会議

内閣緊急災害対策室。メンバーが一同に介している。室長の鍋島、構成員の矢澤、田町、安倍川、松代、篠宮、そして善如寺親康。みな、ある情報を待っていた。被害者仲本幸一の通話記録。召集されてからもう2時間が経とうとしている。 「どうせなら、用意してから呼んでほしいな。」 篠宮が憎まれ口を叩く。が、誰も反応せず、場が白ける。篠宮も負けてはいない。目線を鍋島に向ける。 「鍋島さ~ん、あなたのチーム、何か進展ありますかぁ~。」 篠宮は、いじらしく口元に笑みを浮かべた。鍋島は善如寺のチームに属している立場だ。リーダーではない。答える権利はないのに、わざとらしい。矢澤の側では、疑わしい容疑者がいて内偵捜査中である。進捗という点では、超常現象否定派、自分達のチームが上だと篠宮は自負していた。 「犯行の足がついた。」 警視庁捜査第一課からの極秘情報である。政府にも口外していない。国民、マスコミ、様々な方面から無能と罵倒されながら、警察も手をこまねいてばかりではない。出所は、矢澤に近しい警視庁捜査第一課内個人からの提供。ばれたら懲戒処分ものである。正式な手順を踏まない独断行為。矢澤に相当な貸りを持つ刑事からの情報であった。 足がついた犯行は4日前。現場は、足立区内2階建てアパートの一室。これまでの犯行と同様、被害者の腹部内に異物を混入させた殺害方法。が、建物内に侵入した形跡はなかったものの、犯行の際、僅かに争った形跡が残り被害者の爪からDNAの検出もできた。これまで事前に付近の防犯カメラを破壊して犯行に及んだ案件が都内3ヶ所。今までの犯行にはない、人為的な手口が見てとれるもので警視庁内は騒然、歓喜する。未明の時刻に犯行は発生していることから、500人の捜査員を都内各区同時刻に配置。屋外防犯カメラを監視対象として捜査中であると。もちろん模倣犯も十分考慮した上でとの付け足しもあった。 篠宮が更に言葉を続けようとした時、複数人、廊下を歩く音が聞こえ、部屋の前で止まる。 「お待たせしました。」 ドアを開け、長門と部下数名が資料を持って入室してきた。迅速に机上へ資料が行き渡る。ファイリングされた配布資料は、被害者仲本幸一の契約する携帯会社の通話、通信記録。会社、自宅パソコンの通信記録。SNSの投稿記録。それら事故当日を含め三月分。被害者本人の個人情報、家族構成、職場の人事記録を含む。これだけの個人情報。資料には当然、部外秘と刻印が押されている。 「よく短時間にこれだけの個人情報を集められましたね。」 鍋島が感心する。仲本が死亡してからまだ1日と経っていない。関係機関に手を回すことは簡単ではなかった筈だ。発言は、篠宮に対する牽制も含めている。 「事件の解明に繋がるのであれば、できる限りの事はいたします。」 長門が軽く頭を垂れる。それに相打ち鍋島も一礼。 「では、104回目の会議を始めます。各自、お手元の資料に目を通してください。」 各員のページをめくる音が議場に響いた。 殺害された仲本幸一が所持していたスマホから死亡推定時刻に発信された履歴が割り出される。該当者は、二人。同時送信で、送信先は瀬田直泰、花菱直美と判明。直美の名前が出たのは意外だったが、船橋百合に襲われたことを考えれば頷ける点がある。 「至急、瀬田直泰さんに連絡を取ってもらえませんか。花菱直美さんは、まだ対応が難しい状況なので。」 通話記録に目を通し、鍋島が対策室専門官、長門に顔を向ける。長門は了解した旨を伝え、部下にその場を任せ退出した。長門の退出後、一同は引き続き配分資料に目を通す。 「通話記録、三ヶ月分。携帯電話が会社のと個人、パソコンを含め四台分あるのね。トリッターの投稿記録までも。」 安倍川がカルテに目を通すが如くページをめくっていく。通話記録は、日付と通話時間と通話相手番号のシンプルな内容。通話相手も示されている。会社のものは、会社と取引先がほとんど。個人は家族と交友関係がほとんどだった。個人情報も特に問題のあるものではない。篠宮は、詐欺事件で実刑を受けた際、没収された通話記録がこのような資料になるのかと感慨深く眺めた。資料への視点が違う。松代は細かい数字や長文を読むのが嫌いで、もっぱらがトリッターに投稿した写真を眺めている。仲本は大体、食事の写真や飼い犬の写真などを投稿しており、数名から「いいな」をもらう程度。そんな平凡投稿でいきなり「いいな」が10万以上ついた投稿を松代は見つけた。写真の投稿である。内容は鎌倉の小町通りを撮ったものだ。人混みで活気に溢れている。そんな中、橋の上でその先を物憂げに眺める一人の女性に自然と目がいった。人混みなのに注視してしまう。長めの黒髪、白色系のワンピース、妖麗の美女と言った表現が相応しい。その容姿を見て、松代は思わず大声で叫んだ。 「船橋由利!」 いきなりの大声で隣席の田町が肩をすくめる。声に反応する一同。 「どうしたんです、松代さん。」 鍋島が松代を見る。 「これ、これ、ここ!ここに写ってるのが船橋由利なんだって!」 松代がトリッターのコピーペースト画像を手にゆらゆら揺らす。松代は組でヒットマンをやっていたので、一度標的を覚えたら見つけだすのは早い。船橋由利と松代が言う女性の画像を見ると、確かに船橋由利と相違している部分が多い。善如寺はすぐに船橋由利だと認識した。写真の女性は、今にもこちらに目線を移す、そんな気を起こさせる。トリッターのコメント欄にはあの女性、気になりますやワンピの女性綺麗すぎなど、写真の意図に反し、小町通りと言うか、この女性に対するコメントが集中していた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!