五章「23年間」

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 そのときまで僕と会ったことなどなかった両親は、十歳になった僕を引き取った。理由は後でわかることになる。あまりにも突然のことで、僕は泣きわめきながら嫌だ嫌だと暴れた。愛はショックで咳を繰り返して、おやすみ棟に入院した。僕は嫌だ嫌だと何度も大人たちに訴えた。でも子どもの言うことなんか聞き入れてくれるはずなかった。さみしいんですねとか、ちょっと混乱しているんですねとか、そんな言葉ばっかり。  僕はどうしようもないことを悟って、ベッドに横たわる愛に何度もごめんと謝った。一緒にいようって言ったのに、僕はそれを破ってしまったのだ。愛はすごく傷ついて、泣いた。また、愛を傷つけてしまった。その時、僕は気づく。  猫が死んだのも、僕のせいだってこと。だって、あの猫が僕に懐いていなければ、猫は施設の方まで来なかったし、そこで用務員に殺されることもなかった。愛も、僕に関わらなければこんなにも悲しい想いをしなくて済んだ。僕じゃなくて、他の子と幸せになれば、愛はこんなに傷つかなくて済んだはずだ。僕に裏切られなくて済んだはずだ。  僕は、悪魔の子なんだ。  両親やほかの人たちが言うように、僕がいるから全部台無しになる。みんな不幸になる。大事な人を傷付けてしまう。  むしろ、僕が愛の目の前からいなくなることは、良いことかもしれない。そんなことを思った。  だけど愛はそう思ってくれなかった。 「あたし、待ってるから……」  愛は、僕なんかを待ってくれると言ってくれた。大人になれば自由になれる。そうしたら、両親の元を離れて、また愛の元に行けばいい。そんな言葉を、約束をされてしまったら。  こんなにも弱い僕は。 「うん……」  頷くしかなくなる。  自分がいなくなればいいなどと言いながら、その実、愛がいないなんて考えられなかった。それが僕の弱さで、そして限りなく生きられる理由だった。  僕は愛がだいすきだったから。いまもだいすきだ。
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