三章「過去を燃やせ」

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 アイとシガマテラの話していることは、これからどうするかということだった。アイは引き返そうと言った。僕もシガマテラも怪我をしていて、ホタルもいる。ここは病院に戻って回復を待つべきだと。反してシガマテラはそんな猶予はないだろうと言う。そして、昨日返り討ちにした神父を見つけて殺すべきだと言った。そして、一刻も早く城を奪い返そう、とも言った。二人の議論は平行線にあり、苛々が募っていく。ホタルはその姿をじっと見ているだけだった。  気分転換がてら、僕とアイは二人で買い物に出かけた。火蘭さんのいなくなった街は制御ができなくなり、いくつもの赤派が街を燃やしたらしい。あれだけあった長屋や商店、屋台は真っ黒焦げになるまで燃やされていた。子どもの亡骸を抱えて泣く母親、家族を探して彷徨う、もう長くはない者、物を探す男。失った人たちばかりだった。  僕とアイは火蘭さんの家まで行ってみたが、燃えてほとんど何も残っていなかった。死体もなかった。唯一残った桐の箱は、中身が砕けていて、元がどんな形だったのかもわからない。過去も、思い出も、すべて燃えた。  何も、なくなった。  みんな不幸になった。  それなのに僕は素知らぬ顔をして生きている。  生かされている。
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