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「僕は……あなたのせいで、どれだけ……っ」
どれだけのものを失ったか、わかっているのか。もう普通に生きていけないほどの人生のズレをつくられた。大事な人から、引きはがされた。つらかった。死ぬほどつらかった。それなのに、今更罪悪感を感じてごめんなさいだなんて、そんな馬鹿な話があってたまるか。
僕はなんでそんなことに振り回されたんだ。
「ユウ、もういい」
火蘭さんは僕の隣に並んで、肩を抱かれて撫でられた。火蘭さんの甘ったれた優しい声がすごく嫌で、僕は押し返したのに火蘭さんは力が強くて離してなんてくれなかった。
「いい、許さなくていい。赦さなくていい。大丈夫だ。少なくとも俺はわかってる」
僕は抱きしめて離さない火蘭さんの腕の中でわんわん泣いた。胸が苦しかった。初めての怒りにどうしたらいいのかわからなくて、火蘭さんの胸を叩いた。よくわからない獣のような叫び声をずっとあげていた。馬鹿にされた気分だった。僕の一つだけの願いすら、こんな大人に踏みにじられて、挙句それが全て間違いでしたなんて、馬鹿にしてると思った。
僕が泣き止んだ頃、雨はやんでいた。顔を上げると、母親の隣に男が立っていた。この男は教祖だ。教祖は地獄の淵のような黒の目で、僕を見つめる。光も宿すことなく。
「行こうというのかね」
「ええ、もうあなた方の言いなりにはならないので」
「私達はいなくなっても、永遠にお前の中から消えることはない。お前は私たちの呪縛からは逃れられないのだよ」
「死人は黙って死んでてください」
僕は踵を返す。もう振り返ることはない。
火蘭さんはその手に炎を宿し、森を焼いた。二人はきっと今頃、炎に焼かれているのだろうな。僕と火蘭さんは、もうすぐこの森から出られる。早く、アイとホタルの元に行かなければ。
「くくくっ、貴様、結構言うじゃないか」
「え、何がです?」
「死人は黙って死んでろ……最高の言葉だな」
「ああ……それしか言うことがなくて」
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