四章「世界が崩壊するまで、ゆっくりと」

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「リアンさん、やっぱりそちら側についたのですね」 「シリウスちゃんの目から僕は、大層信仰心深い教徒に見えたんか」 「いいえ、でもまさか、白派のような考えなしで無鉄砲な連中とつるむような方だとは思いませんでした」 「ジブン、結構言うやん」  リアンはほくそ笑む。シガマテラのようにへらへらする癖が移ったのかと気づいて、手で口元を覆う。シリウスも気づいて、軽蔑するようなまなざしを、仮面越しからかつての仲間に向けた。 「理解できない。愛や希望や絆なんて、あやふやでよくわからないもののためにその命を賭そうなどという、自殺念慮のような浅はかな考えを持つあなた方を」 「それを言うなら、神もあやふやでよくわからないものやないか」 「黙ってください裏切り者。神は我々を受け入れない、許さない、だけど平等です。しかし愛や希望は我々を誑(たぶら)かし、嘘をつき、踏みにじり、愛されるものと愛されないものに二分する。愛されないものは一生苦しんで過ごす。抱きしめられたことなどないから」  シリウスは彼女の身長の半分ほどある鉄の立方体をつくり出す。そこから、鈍器や鋭利な刃物などが生まれてくる。これは彼女の殺意を具現化した呪いであろう。 「この世界は、多くを持っているものは多くを手にするように、一つも持っていないものはそれ以上奪われるようにできている」  シリウスは拳銃を創造し、その手に収める。安全装置が外れる音が、それだけやけに大きく聞こえる。 「こんな世界で唯一、神だけは平等に我々を扱う。そんなことを救いに思う私のことなど、あなたにはわからない」  シリウスはためらいなく引き金を引いた。リアンは指先から糸を紡ぎ、シリウスの元まで糸の先を伸ばして銃身にからめ、銃口の向きをそらした。銃弾は壁にあたっただけだ。むなしい音が響く。 「独りで何言っとるんか」  リアンは吐き捨てたような口を聞く。 「僕もあんたの言ってることひとっつも理解できん。神にまつわる崇高な精神なんかわからへん。僕なんか神の教えより今日の飯のことや。もっと言うなら神の愛より仲間の情や。変な奴ばっかやけど嘘っぱちこく神なんかよりはよう信用できるわ」  リアンはより太い糸を出して、シリウスに投げる。シリウスは刀を持ち出してその刀身に糸を絡ませてやり過ごす。リアンは力尽くで糸を引き、とうとうその刀は彼の手の元に向かう。 「理解できないなら争うか。自分と違うなら相手を傷つけるか。それでええと思っとるか。あゝ? 勝手にこじらせて自分が一番不幸って面ひっさげんなや見苦しい」  リアンは刀を構えて、シリウスに向き合う。 「おどれ倒すんにこれ一本でええわ」
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