三章「過去を燃やせ」

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三章「過去を燃やせ」

 その後のことは、僕はそれほどあまり覚えていない。きっとみんなも覚えていないと思う。大雑把に覚えていることがあるとすれば、あの後どうにか逃げ切って、シガマテラと合流した後、華市籠の市場からは遠く離れた廃墟に立てこもったことだ。アイが何かしらの呪いを使ったようで、あの黒の集団は誰も来ない。だから、僕と、アイと、シガマテラと、ホタルだけが、遠くの喧騒から離れたこの場所で息を殺していた。  あの華やかな市場だったと思われる場所から、空を照らすほどの大きな炎が上がっていた。主が死んだ街は真っ赤な死を迎えたようだ。ホタルは取り乱すかと思ったが、ただぼうっと見ているだけだった。  ただぼーっとしているときと、現実を思い出してただひたすら泣いているときを繰り返すホタルが、見ていて胸が苦しくなった。ホタルは決まって、誰も見ていないところに行ってお師匠と呼んで、だけれどもその人がいないことを知ってはらはら泣いていた。僕はとても迷ったけど、一人きりにさせておけなくて、ホタルの元まで行って隣にいた。  その悲痛な子どもの泣き声を聞いているだけで僕まで泣きたくなってしまって、とうとうこの小さな子どもを抱きしめた。ホタルは拒むこともなく僕の胸で泣いた。子どもの体温はあたたかくて、涙も火傷しそうなくらいあつくて、だから僕は死んで償いたくなった。ホタルを抱きかかえながら、僕も涙を呑んだ。  アイとシガマテラは、変わりない様子だった。ただ、僕とホタルを抜きにして言い争っていた。それは喧嘩というより、売り言葉に買い言葉のような、八つ当たりに近かった。いつものシガマテラの軽口に、アイが怒ってしまう。余裕がないのだと思う。シガマテラもわかっているけどやめられないし、アイはこんな八つ当たりしたってしょうがないことだってわかっている、疲れ切った顔をしていた。僕は二人の話していることが難しすぎて、止めに入ることはできなかった。
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