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四章「世界が崩壊するまで、ゆっくりと」
シガマテラが目を覚ますと、そこはうらぶれた廃墟の一室だった。段ボールや椅子はすべて端に寄せられていて、中心はすっからかんだ。シガマテラはそこで大の字に横たわって意識を失っていたらしい。痛む頭を乱暴にさすりながら体を起こす。服についたほこりを払いながら立ち上がる。
「起きたんだぁ」
後ろから声がした。そこには、名前のない男が立っていた。目元の仮面で細かい表情はわからないが、口角は下を向いている。
「ウワーオ……」
シガマテラはお得意の口笛を吹いて茶化したが、しかし今まで以上に焦っていた。いや、恐怖していた。怖いもの知らずのこの男にとって、目の前の化け物は唯一怖いものと形容するほかなかったからだ。こいつは、人の形をした化け物だ。
「おひさしぶり~。誰かと思えばクソクレイジーサド野郎じゃん。元気ィ?」
シガマテラは身を低くして四つん這いになる。仲間の前で隠していた正体をあらわにする。本格的に猫の姿になり、尻尾は二本になる。しかし牙や爪は虎のように鋭く、人一人の首などいとも簡単に掻き切れるほどの代物だ。
「お前こそ、僕に殺されてから元気だった? 舌を奪われたんじゃうまく喋れなかったろう」
「………………何言ってっか聞こえませーん」
この男は。
シガマテラの死神だった。
「またお前は僕に殺されるんだね。馬鹿馬鹿しいと思わない?」
「やられっぱなしでいられっかよ。それに、俺はお前なんか怖くないぜ」
シガマテラの黒い毛並みは、雨に濡れて光っていた。
「俺が死んだら、悲しんでくれる奴らがいるんだな」
シガマテラは男に襲い掛かる。
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