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【-3-】
「何言って――」
「俺はあんたを守らなきゃいけないからな。あんたから離れるような真似はしない。――となると、お互いしか居ないだろう?」
シュタークは拒否権を与える間もない素早さでジスの下肢を暴いてしまった。
「ちょ、やめろって……!」
逃げを打つも力強い腕に捉えられ引き戻され、大きな手に自身を包まれてしまえば、久々に感じる人の温もりに欲を滾らせてしまう。すぐに芯を持ったそれを絶妙な力加減でしごかれて、ジスは呆気なく精をほとばしらせた。
「――確かに溜まっていたんだな。濃くて多い」
手のひらにべったりと広がる白濁をシュタークは眺めている。
あまりのいたたまれなさに飛び起きたジスは荷物から布を取り出して引き裂くと、彼の手を丹念に拭った。
「感想言わなくていいから」
溜め息をついたジスは、シュタークの股の間に入り込むと彼の下穿きに手を掛けた。
「しゃーないからお前のもな」
そこが僅かに兆していることに勇気を得て、隠しを開く。その間にも硬度を増したのか、それはぶるりと飛び出して来た。一度寝たあの時の事は雰囲気程度にしか覚えていないから、シュタークのそれを目の当たりにするのはほぼ初めてだ。
自分よりも大きなそれを握り込み、両手で竿と陰嚢を刺激しながら、ジスは先端に口を付けた。大きく張り出した雁首を吸いながらくびれを唇でしごき、鈴口を尖らせた舌先で抉る。途端に吹き出してくるしょっぱさを味わいながら頬をすぼめていると、やがてシュタークは小さく呻いて吐精した。
ジスは腔内に満ちる苦みや粘りに顔色ひとつ変えず、シュタークの吐いたものを飲み下す。ごくりと響く嚥下音に、シュタークは顔をしかめた。
「好きだな……」
「え、俺、前もお前の飲んだ?」
「ああ。飲ませろ飲ませろって、抵抗したら泣きそうな勢いでねだられたんで、飲ませた」
「――迷惑掛けてごめんなあ」
道理で、出るとも離れろとも警告されない訳である。
シュタークの先走りと己の唾液で汚れた唇を、ジスは手の甲でぐいと拭う。その際に尻の狭間に違和感を覚えたが、なんとなく予想は付いたので努めて無視した。
「なあこれって別料金?」
そしてそれを紛らわせるかのように、明るい声でシュタークに問いかけたのである。
「お互いに抜き合ったから〝相互扶助〟なんじゃないか? ――さ、寝よう」
手早く己の下肢を整えたシュタークは、ずり下がったままのジスの下穿きを引き上げてきゅっと紐を結ぶ。
「おい、子どもじゃないんだから自分でやるわそんなの」
結ばれた紐を押さえながら身をよじるジスに、シュタークは破顔した。
「目の毒でついな」
「なにが!」
吐いてしぼんだものなど情けないだけではないか。
「俺のを舐めている間、白くて丸い尻が柔らかそうに揺れててなあ」
シュタークの声には淫蕩さがにじみ、ジスの足元から顔までを見回した視線は舐めるかの如く。孤高で潔癖な雰囲気の狼の神子が突然見せた色への欲望に、ジスは頬を真っ赤に染めて尻を押さえた。
「ケツは駄目だ! ケツは駄目駄目! 孕んだらシャレんならん」
「ははは。さすがにそこまでは狙わんぞ」
藁布団に先にごろりと横になったシュタークは、
「ほら。あんたも寝ろ」
と己の腹の前を叩いてくる。促されるままにそこに横になったジスは、背後に感じる体温に胸を高鳴らせながら、『一夜限りのまぐれじゃなくて、こいつちゃんと俺に勃つんだな……』と呆れとも喜びともつかぬ感情を噛みしめていた。
その後もジスは方々の村や町に寄っては仕事を請け負い、二三日滞在してはまた街道を歩んだ。
結果旅程は大幅に延長し王都は未だ遠く予定の立つ兆しもないのだが、シュタークは『着いてからの後払いでいい』と言って支払いを延長させている。
お互い旅慣れた身の上だが、野宿の手際はシュタークの圧勝だった。
仕事は丁寧にこなすくせに、自分の事となるとやっつけでおざなりなジス。逆にシュタークは何をやらせても丁寧な上に早い。もちろん料理もだ。
「そんな適当料理だからそんなに細いんだ。がっつり食え」
ましてや今回の旅は移動距離の割に寄る町や村が多い。食料の調達が容易なので、シュタークは行く先々で新鮮な食料を揃えて――携行しづらい野菜類まで短期間で食べきる気満々で揃えていた――、野外料理にしては豪華な食事をジスに提供したのだ。
「そら。これも美味いぞ。食ってみろ」
そして行く先々の市場で珍しい食べ物を見かけると、いちいちジスに食べさせたがる。
今日差し出された物は、この辺りにしか出現しない魔物の肝を串焼きにした物だった。
シュタークが持つ串に直接口を付けたジスは、
「美味いうまい、あつい」
と笑顔を見せている。シュタークはそれを、目を細めて微笑んで見つめていた。
ジスが思うにどうやらシュタークは、〝ひとを楽しませたり世話を焼いたりするのが好きな人物〟であるらしい。整って毅然とした容姿からは掛け離れているが、実際に世話を焼かれ続けているジスとしてはそう判断する。
「これは別料金?」
「俺もあんたも楽しんだから相互扶助だろ」
聞いたジスにすかさず答えるシュタークだが、買ったのはシュターク食ったのはジスである。シュタークは何を楽しんだというのか。
――世話焼きの感性はわからんなあ。
と首を傾げるジス。
ともあれこの問答はジスのお気に入りで、シュタークに何か貰う度に聞いている。
今まで相互扶助以外の返事が返ってきたことがないのが、ジスの心を沸き立たせる。シュタークは本当に、単に面倒見がいいのだろうか。それとも、これ程良くしてくれるのには何か他に理由があるのだろうか――その理由は……。
そこまではいつも考える。
そしていつも、その先は考えまいとする。
所詮ジスは、神殿へと入る身。お互いが何を考えていようとも、王都に着けばお別れだ。
そして相互扶助といえば――。
「ほら、もっと尻あげて。俺のもしゃぶって」
夜。宿で全裸にされたジスは、シュタークの上にまたがっていた。シュタークの怒張をしゃぶり、己のものはシュタークに弄られている――相互扶助という名目で始まった抜き合いを、二人はあれからも続けているのだった。
「んん……っ、しゃぶ、ってほしい、なら、ッ……ケツいじんの、やめ……ャッあ――!」
口での奉仕をお留守にして小言をぼやいたジスへのお仕置きか、シュタークが彼の窄まりをぐりっと抉り、そのまま突き上げた。
「や、やめッや、ぁ、あッ」
シュタークの指を三本飲み込んだ窄まりからはぐちゅりと粘ついた音が響く。
「すっごい濡れてる。最近どんどん濡れるようになってきたんじゃないか?」
「い、いうなよそういうことッ、ンん――――!」
濡れそぼった内壁を揶揄され、シュタークの指を食い締めるジス。食い締められた指先で強引に前立腺を突き上げたシュタークによって、絶頂を極めさせられた。ぱっと散った白い液体がシュタークの胸を汚す。
「あ、……はぁッ、ぁ、……」
ジスは快感に内腿を震わせて吐息を荒げ、シュタークはそんな彼の痴態を眺めつつも名残惜しげに窄まりをいじっている。その浅い抜き差しにさえも反応して、ジスは腰を揺らがせた。
兎の神子の加護のせいなのか、ジスの後孔は性行為によって蜜を滴らせるようになっていたのだ――文字通り、女のように濡れる。ジスはその事に、シュタークと一度目の相互扶助を行った晩に気付いて隠していたが、結局はこうして暴かれているのだった。
「も、ケツいじんのやめろよ……」
ジスは射精したが、シュタークはまだだ。相互扶助を実現させるべくジスは彼の怒張したものを握るものの、達したばかりの指にはいまいち力が戻らない。
「気持ちいいんだろ?」
「……いいけど。どうせそこには入れられないんだからさぁ……」
挿入されて責められる悦楽を知っているだけに、指だけで終えなければならないのは切ないのだ。浅い快感だけを与えられても、欲望に貪欲に疼く身体を持て余すことになってとてもつらい。
だがシュタークが窄まりを弄ってくるのは、受け身に慣れているジスをより気持ちよくさせてやろうという親切心なのだろう。そう思えばそれ以上の苦情を言い立てる事も出来ず、ジスはシュタークを射精させることに専念しはじめた。
「この角度やりにくい」
ジスは一旦シュタークの上から降りると、彼の股ぐらに移動する。そしてその怒張をしゃぶりはじめた。
――これを挿入できたらいいのに……。
甘い疼きに身体を昂ぶらせながらジスはうっとりとシュタークのものに舌を這わせる。本当は一度だけ身の内に受け入れた事があったというのに、酒のせいで記憶が曖昧なのが悔やまれる。
――でも覚えていなくて良かったのかもな……。
覚えていたら、疼きと渇きはもっと酷なものになっていただろう。
音を立てて舐めしゃぶるうちに、頭に手を置かれる。ジスの手よりも一回り大きな肉厚の手が、頭を撫でているのだ。それは優しく髪を梳いたかと思えば、いたずらにうさみみをいじってくる。敏感な根元をくすぐられ、ジスは思わず肩をすくめた。
ぞくぞくするが、耳を撫でられるのが気持ちいいのも確かだ。
そして、大きな手の温かな感触が胸を熱く苦しくさせるのも確かだった。
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