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【-7-】
「ちょ、待て待て! 俺まだ避妊薬を――」
これが最後と自ら誘いを掛けた時は妊娠を望んでいたのに、そんな気持ちはすっかり吹っ飛んでしまっていた。お互いに告白しあった事で、この先に対して冷静になったのかも知れない。
「大丈夫だ。俺が貰ってある」
「はぁッ⁉ 用意周到? お前も実はすっごいやる気満々だったのかよッ」
これが最後だもう会えないから、って思い詰めた俺の決死の覚悟の行き場はッ? と口惜しがりながらシュタークの肩を叩くジス。暴れる彼をものともせずに寝室の扉を通過したシュタークは、現れたベッドの上にジスを降ろした。
「白い」
先程の応接間はそうでもなかったが、寝室は壁もベッドも床も何もかもが真っ白だ。枕や掛け布の端にはレースまであしらわれている。
「神官共の趣味かな?」
「あいつら神子を何だと」
筋肉自慢の男ほど少女趣味なのは案外ありがちな話だ。さては兎の神官達もその手合いかとぼやくジスに構わず、シュタークは枕の下から細い瓶を取り出した。中には緑色っぽい液体が納められている。
「うわぁ、不味そう」
「ところがこう見えて美味いらしいぞ。さあ、飲め」
きゅぽ、と瓶の栓を抜くシュターク。ジスは彼にのしかかられて、促されるまま素直に口を開いた。
その口内へ緑色の避妊薬を注ぎ入れるシュターク。
「……ん」
ジスは眉をひそめて嚥下する。
「なんかうすら甘い」
「不味かったのか?」
「不味いって訳でも……」
そう答える間にも、シュタークはジスの服を剥いていく。
「案外似合っているぞ」
「これか? ひらひらだぞ?」
「似合っている」
そう言いつつも、言い終える頃にはシュタークはジスを全裸に剥き終えていた。
初めてキスをした。
最初の晩にしたかも知れないが、記憶の曖昧なジスにとっては今晩のこれがはじめてのキスだった。
唇を啄まれながら舌を辿られ、きゅっと吸われて甘噛みされる。キスなんて、今まで誰とでもどんな相手とも繰り返して来たはずなのに、シュタークとするそれに、ジスは可笑しい程に感じ入った。
「……、」
キスの合間に弾んだ吐息を漏らすうちに、シュタークの腹に当たった己の物が芯を持って立ち上がったのが分かる。硬い腹筋に先端の擦れるのが気持ちよく、キスを繰り返されながら腰を揺らがせてしまう。
「気持ちいい?」
そう問われて、素直にうんと頷いた。
「俺お前の事、すごい好きみたい」
でないとキス程度でこんなに感じないよなー、とシュタークに抱きつくジス。
「そりゃ光栄だ」
「何を人ごとみたいに。お前はどうなんだよ」
軽く気を損ねたジスがキスを仕返せば、それよりも更に深いキスをやり返すシュターク。主導権は譲らないとばかりに唇を甘噛みされ、ジスはさざめくように笑った。
その笑い声はやがて甘さを含んだものになり、ついには嬌声へと変わっていく。生まれて初めて好きな男に愛撫される愉悦にジスは胸を弾ませた。今までも相互扶助という名目で身体には触れられていたのに、気持ちが通じ合っているというだけでこんなにも違うものなのか。触れる手を今まで以上に温かく感じ、肌を伝う体温が溶け合うことすら幸福だ。
「シュターク」
彼はさっきからジスの乳首に執着を見せていて、お陰様でそれは尖りきり、ぴんと立ち上がっていた。シュタークの唾液に濡れて赤みを増した姿は、ジス本人の目から見てもいやらしい。もう痛い程に敏感になっているというのに、シュタークはまだいじり足りないのか、指や舌で交互に責め立ててくる。くりくりと転がされて、そうかと思えば固く尖った先端を押しつぶされ、その度にジスは息を詰め喘ぎを漏らし、すっかり立ち上がった性器から雫をこぼした。
「そんなとこ、今までも散々さわったじゃん……」
「ん?」
「だから、まだしてないこと、しよう。……なあ?」
ジスはシュタークの身体の下でくるりと転がると、シーツに膝を立てて尻を突き出した。そして後ろ手を伸ばし、指先で尻の狭間を開いてみせる。真っ赤な窄まりのふちを白い指が押し広げ、その内部から溢れる雫がてらりと光り、白い内腿や色づいた陰嚢を伝い落ちていく。
なまめかしく淫靡な様を見せつけられ、シュタークがぐっと息を飲んだ。
「ここは全然、さわってないのに」
熟れた内部を確かめるようにシュタークが指を差し入れて来る。その刺激に、ジスはびくりと腰を跳ね上げた。
「ちが……ッ、ゆび、じゃ、なくって……!」
もちろん指でも嬉しいのだけれど。シュタークのくれるものならば何だって嬉しいと胸を張って言えるのだけど、今に限っては違うものが欲しい。一度は得たのに勿体なくもあまり覚えていない、旅の間中ずっと欲しいと思いつつも得られなかったもの――。
「これか」
「ァ――――!」
ずん、と突き入れられ、ジスは悲鳴じみた叫びを上げる。
「ゃ、あ、あっぁあ、あ、あん、ん……!」
濡れた内壁を割って奥まで押し入って来た怒張に、身体の痙攣が止まらない。ずっと欲しかった待ち望んでいたもの――その存在を身の内に感じ、その喜びのままにジスは絶頂を迎える。
「ん、やっと……、シュターク、の……!」
嬉しい嬉しいと訴えるようにジスの内部がシュタークのそれに絡みつき、食い締める。あからさますぎる反応に羞恥を覚えるが、突き込まれたそれはすぐさま律動を開始する。恥ずかしがる間も与えられずにジスは、先程の羞恥を上回るあられもない嬌声を響かせることになった。
その甘い調べを愉しむかのように腰を使うシュタークは、明らかにジスの反応を見ている。突き込み、抉り、捏ねるように回し、様々な抽送を行ってジスを啼かせて楽しんでいるのだった。
「すごい、かわいい……ああ、やっとまた抱けた……」
シュタークらしからぬうわずった声が耳の根元で囁かれる。優しくて甘い、聞いたものを蕩けさせるような声だ。
――欲しがってくれてた。
その事がジスの心を疼かせる。自分ばかりが求めていたのではなかった。
「シュターク、シュターク」
後ろから誘ったせいで、抱き合えない体勢がもどかしい。衝動のままに首をひねれば、心得たように唇を合わされる。恋人同士の甘いキスだった。
「んっ、あ、ぁ、ん……ッ」
とろりと蜜をこぼすジスの性器が、律動に合わせて揺れる。シュタークに突き入れられて弾けたそれはシーツに染みを作り、今はただ、緩く芯を持って蜜を滴らせるだけになっていた。前立腺を押しつぶす刺激でこぷりと雫をこぼし、濡れそぼった内壁が更に蕩ける。甘い痺れは全身を侵し、ジスは己の限界が近いことを悟った。
「ぁ、いく、いくいく……っ」
「く――……、」
これが最後とばかりに暴れはじめた内壁に食い締められたシュタークは低く唸り、二人はほぼ同時に達した。
「あ、あー……はぁ、」
熱い飛沫を体内に感じたジスは、欲していたものを得た充足感に胸を震わせた。そして大きな胸に背後から抱きしめられ、促されるように共に転がり、次には前から寄り添い合った。
「あ、ははは」
汗に濡れた暖かな身体を触れ合わせる幸福に、ジスは思わず声を立てて笑った。
そのジスをぎゅっと抱きしめたシュターク。
「なんで笑うんだ? 俺なんか可笑しいことしたか?」
と困惑気に胸に額をすり寄せてくる。
「いや、幸せだなって――」
頬をくすぐる狼の耳に目を細めながら、ジスはシュタークの頭を抱き寄せた。
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