アルト

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 ヴィルヘルムから彼の息子について少しでも聞いておこうと思ったレウグは彼に問いかけた。 「陛下……ご子息についてお話を伺っても宜しいでしょうか?」  流石に出会ったばかりのヴィルヘルムに対して、すぐさま父のように接する事はどうにも馴れ馴れしく感じてしまい、すぐにそう呼ぶことは難しかった。  それと同時に、という呼び方にも、どこかよそよそしさを感じたため自らの教養の無さを悔いた。  とはいえ、つい先刻まで奴隷だったレウグにそれほどの教養があったとすれば、それはそれで不気味なのだが、いくら思考が大人びているレウグといえどもそこまでは考えが及ばなかった。 「息子はね、異能力者として産まれたんだ」  ヴィルヘルムは心底悔しそうにそう言った。  その表情は、自分達のせいであると語っているかのように、また懺悔(ざんげ)をしているかのようにさえ見えた。  レウグは、ヴィルヘルムの顔を見て自分達の事も伝えなければならないと感じた。 「陛下、俺は祝福を受けていませんし、アンリは魔法が使えません。ましてや、親からの愛すら俺らは知りません。何せ親に売られたもので……」 「すまない、嫌なことを思い出させてしまったね」  ヴィルヘルムはレウグに対して心から申し訳なさそうにしていたが、レウグは続ける。 「ですが、王子は陛下からの愛情をしっかりと受けていたと思います。異能力者は死んでも肉体が腐らない事は陛下もご存知だと思いますが、先程俺らを買ってくださった奴隷市の奴隷達は大半が異能力者です。まぁ彼らはそこまで強力な能力では無いので買う目的におそらく軍事力強化はないでしょう。」  ヴィルヘルムは、自分の知らなかった事が多々出てきて少々混乱しかけたが、レウグの話の続きを待った。 「彼らは、十中八九戦争に用いる毒の実験生物(モルモット)として使われます。そんな世で王子が今も五体満足なのは陛下の愛かと思うのです」  ヴィルヘルムは、ようやくレウグの言いたい事を理解した。 「ありがとう」  レウグはそれを聞き笑顔でこう言った。 「こちらこそ、あの地獄から救って下さりありがとうございます」  しばらく歓談していると、中性的な顔立ちの(よわい)はアンリと同じくらいだろうか。どう控えめに言っても美しい少年がこちらへとやって来るのが見えた。 「あなたは一体?」  レウグはどうしてもこの少年がこの世の者だとは信じることが出来ずにいた。それほどまでに美しかった。  肩のあたりまで伸びた銀髪は艶やかで、風に靡く様は妖艶さを醸し出していた。肌は赤子を連想させるかのようにきめ細やかであった。 「僕はアルト。一応この国の王子らしいよ」  これが後の『Dの抑止力』と呼ばれる三人の出会いだとはまだ誰も知る由もない。
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