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 麻里(まり)は弟の(たける)を迎えに公園に向かった。歳の離れた弟はまだまだ手がかかる。公園に送り迎えするのは麻里の役目だった。  公園に着く頃、子供の帰りの時間を知らせるメロディーが流れた。公園から出てくる子供の中に(たける)の姿は無かった。 (あの子、また黙って違うところに遊びに行っちゃったんだ)  (たける)は約束の公園にいることは少ない。いつもそうだ。いくつか見当をつけてある場所を巡って、麻里が探し当てなければならなかった。  案の定、(たける)は別の場所にいた。家から遠い方の公園だった。 「(たける)! 帰るよ!」 「おねえちゃん!」  麻里を見つけるなり、今まで一緒に遊んでいた友達には目もくれずまっしぐらにかけてくる。少しもスピードを落とさずに突進するのでよろけてしまうのだが、(たける)は「おねえちゃん!」と麻里に抱きつく。 「ほら、みんなにバイバイして」 「バイバーイ!」  大きな声を出し友達に挨拶すると「おねえちゃん、おねえちゃん!今日ね――」自然に手を繋いでくる。麻里はそんな(たける)が可愛くて仕方ない。ぎゅっと握り返し、家に着くまでずっとと、麻里は(たける)のおしゃべりを聞き続ける、いつも通りの帰り道だ。  ただ少しばかりいつもより遅くなった。門限は六時。遠くの公園まで行ってしまったから間に合わないかもしれない。 「……うんうん。分かったからさ。(たける)、ちょっと急ぐよ。遅くなっちゃった」 「おーし! じゃ、オレ、走ってく!」 「ちょっと! 気を付けてよ、(たける)!」  ここからは一本道だ。車の通りも少ない。麻里は(たける)の背中を見つめながら、自分も小走りに急いだ。
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