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 海まで来てしまったということは、二時間以上は歩いたのかもしれない。  再び隣に座る女の子を見ると、にこにこと麻里を見つめていた。この子だって……一人で何やってるんだろう。麻里は女の子の隣に腰を下ろした。 「そっちこそ、何してるの?」 「私はねぇ『月の道』を行こうと思って来たの」 「ふうん。『月の道』って、月の光が海に映って道みたいに光るやつでしょ?」 「そうそう」 「そこ、行くの?」 「うん」  女の子は砂浜に文字を書いた。満月の月明りの下は明るい。街灯のない浜辺でも『緑』と書いてあるのがはっきりと見える。なんだろう? 麻里は「み・ど・り」と声に出して言ってみた。 「うん、『緑』。ねえ、名前、なんていうの? 私、(みどり)」 「みどりちゃんか。私、麻里(まり)」 「麻里ちゃん! 可愛いね」 「そうかな。……あんまり呼ばれたことないから自分の名前って感じしないけどね」 「へぇ。なんて呼ばれてるの?」 「家では『おねえちゃん』学校では『二号』。“まり”って学年にもう一人居るから」 「せっかくかわいいのにね。私は麻里ちゃんて呼ぶよ」 「ありがと。おばあちゃんも麻里ちゃん、って呼んでくれてた。緑ちゃんも可愛いよ」  ふふ。と顔を見合わせて笑い合うと、もう、友達みたいだった。   「麻里ちゃん、もしかして家出?」 「うん。分かる?」 「うん。泣いてたし。どうしたの?」 「もう帰ってくるなって言われたの。顔も見たくないって。役立たずだって」 「誰に言われたの?」 「お母さん」 「そっか。……じゃ、いっしょに行く? 『月の道』。なーんて!」  『月の道』――、緑は海を指さした。  満月の下、月光が海に一筋の道を描き、緑と麻里の座る浜辺へとまっすぐに伸びていた。  「……緑ちゃんはどうしたの? 家出?」 「家出じゃないよ。『月の道』行こうと思って来たの」 「そっか。そうだったよね」 「色々あんのよ」    
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