19人が本棚に入れています
本棚に追加
二
海まで来てしまったということは、二時間以上は歩いたのかもしれない。
再び隣に座る女の子を見ると、にこにこと麻里を見つめていた。この子だって……一人で何やってるんだろう。麻里は女の子の隣に腰を下ろした。
「そっちこそ、何してるの?」
「私はねぇ『月の道』を行こうと思って来たの」
「ふうん。『月の道』って、月の光が海に映って道みたいに光るやつでしょ?」
「そうそう」
「そこ、行くの?」
「うん」
女の子は砂浜に文字を書いた。満月の月明りの下は明るい。街灯のない浜辺でも『緑』と書いてあるのがはっきりと見える。なんだろう? 麻里は「み・ど・り」と声に出して言ってみた。
「うん、『緑』。ねえ、名前、なんていうの? 私、緑」
「みどりちゃんか。私、麻里」
「麻里ちゃん! 可愛いね」
「そうかな。……あんまり呼ばれたことないから自分の名前って感じしないけどね」
「へぇ。なんて呼ばれてるの?」
「家では『おねえちゃん』学校では『二号』。“まり”って学年にもう一人居るから」
「せっかくかわいいのにね。私は麻里ちゃんて呼ぶよ」
「ありがと。おばあちゃんも麻里ちゃん、って呼んでくれてた。緑ちゃんも可愛いよ」
ふふ。と顔を見合わせて笑い合うと、もう、友達みたいだった。
「麻里ちゃん、もしかして家出?」
「うん。分かる?」
「うん。泣いてたし。どうしたの?」
「もう帰ってくるなって言われたの。顔も見たくないって。役立たずだって」
「誰に言われたの?」
「お母さん」
「そっか。……じゃ、いっしょに行く? 『月の道』。なーんて!」
『月の道』――、緑は海を指さした。
満月の下、月光が海に一筋の道を描き、緑と麻里の座る浜辺へとまっすぐに伸びていた。
「……緑ちゃんはどうしたの? 家出?」
「家出じゃないよ。『月の道』行こうと思って来たの」
「そっか。そうだったよね」
「色々あんのよ」
最初のコメントを投稿しよう!