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「――ねえ、麻里ちゃん。やっぱり『月の道』行くの辞めよっか。麻里ちゃん、弟いるし」 「うん。辞めよう、緑ちゃん。一緒に帰ろ?」  緑はまだ涙の滲む目で微笑んだ。立ち上がり、「行こ」と、麻里に手を差し出した。 「交番まで送ってあげる。親呼び出してもらってさ。お母さん、きっとメチャメチャ注意されるよ」 「ソレ! それ見たいの、私!」 「お巡りさんに全部 話しな? すぐぶたれることとか、ごはん抜きにされることとか」 「うん。あのね。明日家庭科があるんだけど、ずっと前から端切れ(・・・)頂戴っていっても、誰かに分けてもらえばっていうの。いっつもそう。ひどくない?」   「端切れって、(ぬの)の?」 「そう(ぬの)。小学生の時なんか家庭科で毛糸使う時、私のセーターほどいたんだよ。泣いちゃったよ」 「……麻里ちゃん、これあげる」  緑はポケットから小花柄のハンカチを取り出した。 「かわいい。でもまだ全然キレイだよ。使えないよ」 「同じの二つあるから気にしないで。きっと小物とか作るんでしょ? ダメにするわけじゃないじゃん。これでかわいいの作って」 「え~! ありがとう!」  交番が見えたところで緑は立ち止まった。夜も更けて11時を過ぎ、一緒に行ったら緑も補導されてしまう。ここでお別れだ。  緑は麻里に向き合い、しっかりと手を握り言う。 「ね、麻里ちゃん。高校は卒業した方がいいよ。辛いと思うけどそれまでは我慢して。資格とか取れる高校いっぱいあるから。弟くん育てたいなら怪しい仕事とかエロい仕事とか絶対ダメ。仕事選んで幸せになってね。麻里ちゃんはいい子だよ。麻里ちゃんなら絶対大丈夫だから」 「うん。ありがと。緑ちゃんもだよ? また『月の道』に行きたくなっても絶対一人で行かないでね? また満月の夜、海に来ちゃったとしても、絶対、私のこと待っててね? 今度は弟の(たける)も連れてくるから。まだ小1なの。お話してあげてよ。かわいいよ!」 「ふふ。ありがと!」 「バイバイ!」と、麻里が手を振る。緑は「じゃあね」と、静かに答えた。  交番の前で振り返ると、もう、緑は居なくなっていた。
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