プロローグ

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 プロローグ

 視界には少女が一人立っている。グレーのブレザーにチェックのスカート。幼い容姿だが、同じ湊高校の生徒だ。青いリボンだから二年生だろう。  彼女は部活の勧誘ポスターに熱い視線を注いでいた。これだけならドラマ性など何もない。よくある風景、高校生活の日常の一ページだ。  しかし、なんてことのない風景でも、時期や状況によっては、いとも簡単にドラマのきっかけへと変貌する。  例えば、道を歩くだけのことであっても、それが雨や雪が降る中だったり、着物やドレスを着ていたらどうだろう。  そこには登場人物の目的が存在し、そうせざるを得なくなった理由があるはずだ。そう推測される。  目の前に居る少女は、雨の中で傘もささずに突っ立ってたり、ウエディングドレスのまま外を駆け出しているのと同じくらい魅力的だ。  学園祭まであと三週間という秋の日。こんな時期に部活に入ろうとするやつなんて普通じゃない。  そして、その表情は深刻だ。きっと彼女には何か深い事情があるのだ。 「部活を探しているのか?」  俺がそうわかりきったことを訊くと、彼女は初めてそこに人がいることに気づいたような顔でこちらを見た。  そして、俺の胸辺りを見ると、意外そうな顔をした。 「……私、二年なんだけど」  ああ、そうか。単純な話だ。俺は一年生なのだ。 「悪いな。俺は敬語の使い方を存じ上げないんだ」 「謙譲語を知ってそうだけどね」  彼女はそう言って口元を緩める。正しくは、高校という場所で敬語の類を使う気にならないだけなのだが、そこは細かく説明する気もない。 「で、部活を探しているのか?」  同じことをもう一度言う。すると、彼女に深刻そうな表情が戻った。 「……ええ」 「それは、学園祭前でどの部活も忙しいということがわかっていても、突き通したいものなのか?」 「そうなる……かな」  彼女はポスターのほうへ視線を戻す。特別何かあてがあるわけではなさそうだった。 「学園祭前だからこそなのか? それとも、関係なく今しかない理由があるのか?」 「後者だよ。でも、学園祭って都合がいいなって思っているの」  なるほど、面白い。彼女は俺の、もとい制送部のターゲットに決まった。 「それなら、俺たちが協力しよう」 「……えっ?」 「力を貸そうと言っているんだ。学園祭で部活として何かしたいんだろう?」 「うん」 「なら決まりだ」  彼女はまだ整理できていないようだった。まあそのほうが都合がいい。考えられると面倒だった。  俺はこれから彼女を利用する。なに、彼女だって俺を利用することになる。相互的なものだから、悪く思わないでもらいたい。  全ては妹のためなのだ。
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