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ガラッと窓を開けてベランダに出て夜空を見上げる。探すように左右を見渡すと、それは五階のここよりもはるかに高い、左斜め遠くに見えるマンションのてっぺん付近にあることが分かった。薄雲に隠れているが、透かす光で「ここだよ」と囁きかけているようだ。
地上から昇る光は夜空まで届き、星々の輝きを消し去っている。唯一存在することができるのはそれだけかのようだ。
「やばいなあ……」
ため息に自然と呟きを乗せてしまった。まあ、それだけまいっている自覚はあるからしょうがない。
右からの緩い夜風を受けながら、俺は振り返り確認した。
「なあ、本当に行くの?」
ソファーに座りカバンの中をごそごそしていた亜希が顔を上げた。その顔は何をいまさらと言いたそうだ。自慢の切れ長の目が細められているのが、ここからでも分かる。
顔はこちらに向けているが、返事を寄越さない亜希に、俺はもう一度確認する。
「本当に行くんだよね?」
しつこいとの言葉を省いたような、「行くよ」と短い返事がきた。
「そうだよね……」
俺のかぼそい返しなんて、数メートル先の亜希まで届いていないだろう。
緩いとはいえ秋の夜長の風は身を震わせる。いや、身だけじゃないな。冬の風でもないのに芯まで凍えるようだ。
はあ、とため息一つついて俺は部屋に入り窓とカーテンを閉める。
ゆっくりと回れ右をして、ソファーに近づき、間を空けて亜希の右側に腰を下ろす。
ネイビーのジャケットからタバコを取りだし火をつけようとすると、亜希が俺を見て一言。
「もう行くよ」
俺は吸えなかったタバコをしまい、渋々頷いた。
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