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青い果実
異国出身の母が常々食べたいと言っていた赤くて汁がしたたる果物。
甘酸っぱさの中に潜んだネクタルの芳醇な香りが口いっぱいに広がる、らしい。
母の出身国と、この場所は400キール離れている。その果物を入手することは距離的に困難だった。
私は母がここに住まう経緯を知らない。
母は銀色の髪と薄青灰色の瞳をしていた。ブルネットの髪を持つ人ばかりのこの国で、母の外見は異端だった。角度によって色が変わるように見える瞳の光彩。いつまでも若いままの容貌。
母はとても静かな人なのに、その特殊な外見から魔女扱いされ恐れられていた。母を恐れないのは父と私、そして世話係の数人だけだった。それ以外の人は遠巻きにして奇異の目をむけてくる。
あるとき母は倒れ、寝たきりになった。寝てしまったまま目を覚まさない。
私は世話係のジーナと一緒に母の世話をする。
白くて細くなった母の体を二人で支えながら、マジナ花の精油を含ませたお湯で清拭する。清拭の後の母は摩擦で体温が上昇するのか、頬がほんのり赤く色づいていた。
時折、母の元を父が訪れる。
そんな時は私とジーナはそっと部屋を離れていた。
この屋敷に私に関心を向ける者はいなかった。
私は母に似て髪の色素は薄く背が高かった。私自身も、私から何かされるのではないかと周りに引かれ気味悪がられていたような気がする。
父には妻が何人かいて子どもも沢山いた。母は父の妻達の中では一番、力がなかった。他の妻達は実家の財力で豊かに暮らしていた。
実家がこの国にはない母は、必要なものを自分で用意出来ないため、時折訪ねてくる父にお願いして入手していた。
そして母を頼れない今の私にはもっと力がなかった。家自体は裕福で立派な屋敷に住んでいるはずなのに、私達はとてもつましく暮らしていた。
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