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誰かが噂をしていた。
屋敷の隅でひっそり暮らしていても耳に入るくらいのさざめき。
異国のキャラバンが街に来ていると。
西国のずっと向こうから来たらしいと。
母の国は西国だ。
もしかしたら母の欲しがっていた赤い果実を取り扱っているかもしれない。その赤い果実の汁を口に含ませたら、母は目覚めるかもしれない。
私はその考えにとりつかれた。
キャラバンの滞在は一時だ。
急がねば。
ジーナに相談するとキャラバンなんて荒くれた男ばかりで野蛮だという。彼女はキャラバンを非難するばかりで、代わりに買いに行ってくれる様子でも、一緒に行ってくれる気配も無かった。
年末に喜捨のイベントがあった。家長が家に住まう者に日ごろの感謝を込めて贈り物をするイベントだ。妻達や大事にされている子ども達には名のある品が贈られてくるらしい。
母には父から鮮やかな蒼の貴石で染め上げられた豪華なストールが贈られてきていた。子どもの端くれの私も銀貨を与えられていた。
私はこの時の銀貨を手に街に出て買い出しに行くことにした。
屋敷の人間は、街は汚くて危ないという。
以前、母に連れられて何回か買い物に行った事があった。危ないというより人々が私たちにむける奇異の目が嫌だった。
髪を編み込む。頭に巻き付けてミーア教徒みたいに布でぐるぐる巻きにした。
私は背が高くひょろひょろと痩せていた。
女の子らしくないといつもジーナに言われていた。
少年風に短めのチュニックと長めのポンチョのフードを頭から被る。このフードと視線を下に向けていれば瞳のことはバレないだろう。
支度を終えると屋敷の庭の生け垣をすり抜け、塀をよじ登り外へ出た。
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