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缶の中の手紙
羽野との再会は偶然だった。
仕事終わりに会社の同僚と飲みに行った店に、彼がいたのだ。
L字型のカウンターと4人掛けのテーブル席が4つ並ぶだけの、小さな居酒屋。
羽野はカウンター席の端にぽつんと座っていた。
5年ぶりだったが、すぐに分かった。
細面で白い肌、お手本のようにぴんと伸びた背筋、太くてたくましい眉。
「羽野先生!」
声をかけると、羽野は肉付きの悪い顔をゆっくりとこちらへ向けた。
額の面積は広くなり目元には深いシワができていたが、大きな瞳が私を捉えた瞬間、胸に懐かしさがこみ上げてきた。
5年の歳月を感じながら、私は自分の顔に指を差した。
「水沢です。水沢たまき。前に教習所でお世話になった。……覚えてます?」
羽野は控えめに微笑んだ。覚えているのかいないのか、判然としない表情だった。
すぐに、私は質問したことを後悔した。
記憶に残っているはずなんかないだろう。彼と関わった期間はほんの数ヶ月。それに私は、たくさんの生徒の中のひとりに過ぎないのだから。
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