真実は未来で

1/1
前へ
/1ページ
次へ
こんな月が綺麗で月明かりが明るい満月の晩には、恋人達は愛を確かめ合い、センチメンタルな人は遠回りして帰宅するのかも知れない。 私はどちらでもなく、ただただ仕事を終え愛を確かめ合う人もおらず、感情的にもならず帰路についている。 月光を背に浴びながら、歩いているとふとラーメンの香りが漂ってくる。こんな所にラーメン屋などあっただろうか。そんな事を思いながら周囲を見渡すと、令和の時代には珍しい屋台のラーメン屋があるではないか。夕飯も決まっていなかったし、今夜はここで済ませるか、そう思い足を屋台に向けた。 店主は思いの外若くて、 「どうも いらっしゃい」と簡単に私に挨拶をした。 「うちは醤油ラーメンしかないけど いいかい。」ほう。余程醤油ラーメンに拘りがあるのか。そう思いつつ「ええ」とだけ返す。 ラーメンを待つ間、屋台の中に流れるラジオに耳を傾ける。交通情報や届いた手紙に対するパーソナリティが答える、たわいもない事しか流れてこない。しかし、これこそがラジオのあるべき姿か。今のテレビはやれタメになることやら、政治がどうのとしか放送しない。そんな事より、ラジオの方が何倍も楽しめる。 「お待たせしました」そんな声でふと我に帰る。 「どうも」愛想の無い店主に簡単に言葉を返しラーメンを受け取る。 手を合わせ、ラーメンをすする。 「普通だ」思わず口から溢れる。しまったと思い店主の顔を伺う。 店主は何食わぬ顔で 「当たり前だろ。シンプルこそが一番美味いんだから」とだけ言うとタバコを吸いに屋台から出て行く。 確かに、今や何でもかんでもトッピングしたり、拘りにこだわった様なラーメンが沢山あるが こういうシンプルなものこそ、真にラーメンと言えるのかも知れない。 ラーメンを完食したし、帰るか「店主、お会計」 「40円ね」 「えぇ 40円でいいんですか!?」予想外の値段に私は声を裏返しながら叫んだ。 「そんな昭和30年代みたいなラーメンの値段でいいのかい!?」 「お客さん さては酔ってるね 今日は昭和34年の9月15日じゃないか」 「何言ってるんだ!今日は令和元年の9月15日だろ!冗談も大概にしてくれ!」 「令和ぁ?何言ってるんだい?お客さん頭大丈夫かい?病院行った方がいいよ。とりあえず 40円ね。」 今朝コンビニで買い物した時にでたお釣りで大丈夫かと思いながら 10円硬貨を店主に差し出す。 「毎度」それだけ言うと店主は片付けを始めた。 本当に昭和34年なのか?俺の生まれるよりも20年以上も前だぞ。周りを見渡すといつもの帰り道の様子が違う。鉄筋コンクリートのビルはボロいアパートになっており、住宅街は木造家屋が連なっている。 どうなっている。俺は本当に頭がおかしくなっちまったのか? 「なぁ?あんた」 ふと後ろから声が聞こえる。 ビクッとしながら、後ろを振り返る。そこには、長身痩躯の男性が立っていた。 「誰だ。あんた」 「私ですか?私はそうですね。わかりやすく言うとタイムパトロール隊の隊員ですかね」 「タイムパトロール隊!?そんなふざけた事があるか!」 「いやぁ それがあるんですよ。事実今あなたは昭和34年にタイムリープしてしまってるんですから」 「おいおい お前も俺をからかうのか!そんな訳ないだろ!タイムリープなんてSFの話だろ!」 「あなたを元の世界に戻した後に記憶処理をするので、なぜタイムリープしたのか。とかは話す必要がないですね。言えることは、タイムリープは存在して、偶然にもあなたはタイムリープしてしまった。そして、そんな哀れな人を元の時代に戻すのが我々の仕事って事くらいかな」 「おいおい 馬鹿なことを言うなよ。俺は知ってるぞ。時間を遡るには光の速さを越えなきゃいけないんだろ!!そんな技術が令和の時代にできる訳がない!」長身痩躯の男は、カツンカツンと靴を鳴らし近寄ってくる。 「そうか。あんたの時代はまだそう言われてた時代か。では もう一つだけ教えてやろう。」 そう言いながら やつは俺の目の前まできた。 「俺の時代では そんな事信じてる奴はいねぇ」 そこで 私の意識は途切れた。 妙にぬるい風で目を覚ました。どうやら私は公園のベンチで寝てしまっていたようだ。身体を起こそうとすると頭が痛い。飲みすぎたかな。 飲んでいたところまでは記憶があるが、それ以降の記憶がない。なんだか、夢を見ていた気がするが、どんな夢だか覚えていない。とにかく家に帰ろう。 立ちあがり、煌々と照る満月を背に帰路に着く。あれ?こんな公園の近くに屋台のラーメン屋なんてあっただろうか。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加