プロローグ

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プロローグ

 淀んだ思考が沈む。目を閉じているのか、それとも開けているのか、それすらもあやふやな闇の中で、彼女の思考が首をもたげる。  ――。  暗さに不安もなく。苦痛もなく。希望も期待もなく。  ズズ……  ほどなくして彼女は暗がりを歩み始めた。右手に持っていた「それ」は引き摺った。  ズズ……  「ブブブブブブ」  彼女の耳元に羽音が響く。遠くから近くへ、近くから遠くへ。それの音源が彼女に触れることはなかったが、彼女は羽音に気にする様子もなかった。  ズシャン  引き摺っていたそれに足をとられ、彼女は地面に顔を突っ伏す。  「ブブブブブブ」  「ブブブブブブ」  動きの止まった彼女の周囲を羽音が囲む。彼女は顔を覆う。  ――そのとき彼女が咄嗟に顔を覆ったのは、大きくなった羽音のせいではなく、その後に起こることを予見してのことだった。  暗闇の世界に、光が差し込む。  少しずつ、少しずつ。どこまでも暗かった世界の明度があがり、世界は確実に温もりを帯び始めていた。彼女の世界に色がつく。  「ブブブブブブ」  羽音はさらに大きくなる。  彼女はそこで持っていた「それ」をその場に落とし、穴を、掘りはじめた。  「ブブブブブブブブブブ!」  暗がりに浮かび上がった世界。その世界には埋葬の痕が連なっていた。  ザリ  ざり  ザク  そしていま、新しく掘り開けた穴に彼女はそれを放り込んだ。  ――そして埋める。  煌々とする世界に刹那の影が舞う。  ふと彼女が見上げるとそこには魚が舞っていた。
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