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「なあ、どういう意味だと思う」
ヤケ酒に付き合ってくれるのは、こちらに出て来てから知り合った友人だ。僕より遥かに女性にモテる。
「お前って、完全に文系だよな。古典好きだし」
「男は理系じゃないとモテないとでも」
怒気を孕んでしまった声に、まあ落ち着けと緩やかに手を振る。
「お前さ、地球から月がどう見えるか知っている」
「馬鹿にするなよ、月は」
そこまで口にしてようやく気付いた。
……月は常に一面だけを地球に向けたままだ。
「そう、彼女は完璧に君を御客様としてしか見ていなかったのさ。裏の顔は見せず、客を楽しませる為の一面しか見せないでね」
こちらの表情の変化に心情を理解したのだろう、ダメ押しの様に言葉を繋げて来る。
「後さ、」
飲み干したグラスを置き、友人はすっかり真っ暗になった窓の外を指し示す。
遥か彼方、林立する建物の隙間から見える地平線より、凄まじい速さで二つの衛星が駆け昇って来るのが見えた。
「ここは地球じゃない。同じ衛星を指して、ものを言っても意味が違う。ここじゃ『芋くせえ』って意味になる」
フォボスとダイモス。
火星の歪なジャガイモの如き姿をした月が天の頂きへと向かって行く。
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