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陰と陽
昔の事を考えるだけで身体は震えた。頭の中はぐちゃぐちゃになって俺を苦しめる。
あの頃のことなんて思い出したくもない日々だった。
―――
薄暗い部屋に噎せかえるほどのタバコの煙と混じりあった香水の匂い。そして聞こえてくる声。聞きたくもない。
『…あ…っン』
その声が聞こえてくる度、耳を両手で塞ぎ聞こえないように縮こまった。
隣の部屋では母親が知らない男を連日のように連れ込み、コトをやっている。その行為が何なのか知ったのはいつの頃だったのだろうか。
『…っあン』
一際声が大きくなりその声を聞かまいとさらに強く塞ぎ、近くにあった毛布を頭から被るとぎゅっと目を閉じた。
毛布を被っても聞きたくもない声は聞こえてくる。何故か涙が流れ出し、それに合わせて嗚咽が漏れ始めた。
『っぅうう…』
隣の部屋に聞こえないようにと下唇を噛みしめ、嗚咽が漏れないように浅い息を繰り返している内に段々と意識が遠退くのが分かった。
ーー誰か助けて…ーー
頭の端でそんな事を考えながら意識を手放した。
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