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『あーあ、グチョグチョじゃねーか』
頬に感じる温かさがあった。
涙を拭う指は強引ではあったがどこか優しさがある。目を開けようとするが、瞼が言うことを聞かず視界は真っ暗なままだった。もう少しで開きそうと言う時、その声の持ち主によって遮られる。
『わりぃ、わりぃ。まだ寝とけ、な?』
そう言うと壊れ物を扱うかのような優しさで頭を撫で付けられた。未だかつてこんなに優しく撫でられたことなんてあっただろうか。
その刹那、涙が溢れだす感じがした。何故か溢れて止まらなかった。今までとは違う涙だった。フッと笑う気配がしたかと思ったその瞬間、ふわりと身体が宙を浮く感じがした。
『よっこいせっと!』
抱っこの形で抱きすくめられると、身体全体が温かさで包まれる。背中を大きな手で撫でられれば安心が身体中を巡った。
『俺にも倅がいるんだけどよ、お前見てると思い出すわ…』
ポンポンとされれば、その手にすがりたくなった。
『俺んとこ来るか?ん?』
耳元でぼそっと呟かれた言葉にすーっと心が軽くなるのを感じ、彼の服を掴んだまま再度意識を手放した。
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