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プロローグ
「俺、お前と出会えてよかった、本当に良かった…」
目にいっぱいの涙を溜めた彼はぎゅっと下唇を噛むと俺の服を力強く掴んだ。そして、必死に笑おうとする。
「へへっ」
今にもこぼれそうな涙は夕日に照らされキラキラと輝いて見えた。
――頼むから、辛いのを我慢してまで無理に笑おうとするな。見ているこっちが泣きたくなるんだよ。
心の中でそう呟き、俺は目を合わせると子供をあやすかのように頭をぽんぽんと撫でた。彼の目がゆっくり大きく見開かれ、溜まっていた涙が一直線に綺麗に流れる。その時二人の間を風がぶわっと通り抜け、彼のさらさらとした髪がなびいた。見惚れてしまうほどにとても綺麗だと思った。
俺は彼の目元に唇を寄せると、チュッとひとつの甘さを落とした。
「しょっぱいな…」
舌なめずりをし唇に付いた涙をなめとる。
そんな姿を恍惚とした表情で見つめてくる彼。
――その表情はダメだろっ…
抑えは利かなかった。彼の下唇に親指を這わすと軽く開かせ、優しくそして深く口づけた。
「…っ」
息を呑む音が聞こえる。強張っていた身体から力が抜け、ずしっとした重さがかかった。しかしそれは甘さを生み出すひとつの感覚でしかなかった。
「……」
彼をぎゅっと抱きしめると耳元でそう囁いた。再び彼の目尻からツーと涙が流れる。
――もう絶対に一人にはしないからな、と心に訴えかけた。
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