ムーンライト発電

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ムーンライト発電

藤原「村田先輩・・今夜も残業ですか?」 私『残業ね・・そやな・・そう成りそうやな・・藤原君・・君はどないするねん・・』 藤原「私は先輩みたいに、体が丈夫には出来てませんので・・今日は、この辺にしときますわ・・」 私『・・誰が丈夫やて?・・そんな元気なんか有るかいな、こないだなんか、考え事するのに、ちょっと縦肘付いただけで・・いつのまにか夢みてしもたんや・・ホンマ、疲れ易うなったもんや・・』  この程度の経験など、決して珍しくもない・・よく訊く話である。 だが、或る人がある問題に答えが見つからず苦悩の連続だったとする・・ そんな時、例えそれがうたた寝だとしても、その答えが夢の中に現れる場合がある。何を隠そう、そんな体験者の一人が私である。 他人はこの私を・・幻覚症状と言ったり、ついには誇大妄想と言う人もいる。 藤原「ほな、お先に・・失礼します」  彼(藤原)は私の研究チームの一員であり、私の二年、後輩にあたる。 いつの頃からか彼とはお互いが遠慮なく話し合える間柄になっていった。  彼こそ、気性のいい男なのだが・・41歳になる今も、浮いた話は聞こえてこない。   私達は、大阪の或るソーラーパネルメーカーの研究室に勤務している。 小さな会社だが、研究室のメンバーだけでも15人余り居る。 これまでの研究室の成果と言えば、ソーラーパネルの効率を毎年更新させていることだ。  そんな中、今月になって、とんでもない難題が営業から言い渡されたのである。 それは、太陽でなければ、水でもない・・勿論ガスでなければ、石油でもない・・つまり、これまでに無い全く新しい再生可能エネルギーを考案しなさい!と言う命令だった。 果たして、新しいエネルギーとは・・私は営業部長の言葉に固唾を呑んだ。 部長「それはだね君・・ムーンライトだよ」  私と二人きりの部屋なのに、なぜかその会話にはお互いが声を細めた。 私『まさか・・つっ、月明り・・ですか?』 『月の明かりで発電やなんて・・そんなアホな・・部長・・それやったらノルウェーでしか売れませんよ』  私は、開発チーム15人の中から・・少しやんちゃな藤原 優(男子)と数字にはめっぽう強い、佐藤和美(女子) そしてリーダーの私を含めた3人をムーンライトプロジェクトとして選出した。  ・・今日が、新しくプロジェクトを立ち上げて、ちょうど一か月になる。 プロジェクトで紅一点の佐藤さんは定時の5時に退社したが、藤原君は先ほど私の体を気遣いながら「ほな、お先に・・失礼します」と声かけして帰ったところである。    私たちは、あれから宇宙に関するレポートを週一のスパンで、互いに読み合わせするようにしていた。 勿論、月明りに関するスキルを高めるためでもあるが、難しい専門語が並べられた本やレポートやらには、私を始め、他の二人もそろそろ、うんざりしていたところである。  だから残業ではなく、今夜は社屋の屋上で一人月見をしたかったのだ。 『月見をしながら一人、一杯やりたかったから?・・』 いいえ、そうではない・・  私が思いついたのは、メンバー3人だけで「お月見実習」と称した、屋上研修が出来ないものか?と考えたのだ。 勿論、お月見だから、時間帯は夜間に限られる・・ だから今夜のうちに、下見をしておこうと言う訳だ。  私が、ムーンライトプロジェクトのチームリーダーだなんて・・実は、全く洒落にならない人選だった。 その理由を、営業部長に話したとしても、きっと笑われるだけで、私の苦悩など理解してくれるはずも無い。  人々が美しいと称する、あの「満月の輝き」私にとっては恐怖の導火線になったことがある。 その様は、まるで「満月に悩み苦しむ狼男」のようである。  それでも、この仕事を引き受けたのは、プロジェクトを進める中で、私がトラウマとする幻覚症状が、もし偶然にでも改善出来たとしたら・・私には、ついそんな期待が有ったのかも知れない。
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