潜在能力がハッキング被害に

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潜在能力がハッキング被害に

 10年も前の出来事である・・コンピュータプログラムの技術なんて、およそ素人の私が・・そのプログラムの不具合を、自分一人で修正してしまったと言うから、とんでもない話である。 勿論、「今一度・・」と、ねだられたとしても、当時の「複雑で訳あり」な、その再現は不可能だと思う。  この夜、その日のうちに仕上げたい仕事のために、一人で残業をしていた。 そんな最中、自分が使用している、会社のPCに不具合が発生してしまった。 こんな場合、多くのユーザーは、インターネットを使って修復作業の検索をするみたいだ。  私もそうだった・・「何?・・ソース画面を開いて、HTMLの言語を確認・・」  私は見たことのないソース画面の言語に追いつけず、萎縮してしまった。 悔しいがその夜のPCの修復は断念した。 終電車の中でも・・自宅で風呂上りのビールを飲んでいるときも・・プログラムのソース画面のことが頭から離れることはなかった。  それは小便のためにトイレに立った時もまだ続いていた・・ 半開している小窓からは・・月明りに照らされた、お向かいの青い瓦屋根が見えた。  青瓦は月の光を鈍く反射していた、なんとも神秘的で不気味なほどの光沢だ・・ この瞬間だった・・私の体から、いや頭から徐々に血が引いてゆくのが分かった・・「ここは何処や・・ワシは今・・何をしてるんや・・」と、僅かながらの意識の中で、独り声を振り絞った。 「体がよろける・・」転倒を恐れた私は、小窓の枠に必死で摑まった。 ・・・・ここまでが現実の世界として記憶している。  つまり、その時の私の状況を、他で例えようとするならば・・それはまるで船外活動をする宇宙飛行士になった気分だ。 特に私の頭脳は無重力状態に侵されていたからである。  隠されているはずの私の潜在能力では、 私ではない誰かが、次々とその引き出しの中身を取り出している。 さらにそれらを私の脳裏に並べ替えているのだ。  気分が悪い・・吐き気も感じた 『いい加減にせんかい! ワシの頭脳を勝手に占有するな!』と叫んだのを覚えている、しかし・・ ふわふわとした意識の中での私の叫び声など、それを急静止するには、あまりにもむなしいものだった。  それでも・・やがて、その並べ替えの動きは・・徐々に・・そして緩やかに治まっていった。 決して私の声が届いたからではない・・ 彼らの目的が充分に達せられたからであろう。 そのうち私の脳裏に流れていたHTML言語のテロップが静止した、それが、その証である。  さて、ここまでが、狼男を演じる私の体験談ではあるが、これらの全てを事実として、理解してもらおうなんて・・そこまで厚かましくはない。 でも、このうちの幾つかが、わたし個人の「幻覚症状」だと捉えれば、よく有る話だと頷いていただけるかと思う。  この幻覚の始まりは、コンピューター(PC)の不具合に試行錯誤していた私が、うっかりと、そのプログラムのソースページを開いたことで始まる・・    だが待てよ・・そのソースで使われているのはHTMLの言語である・・しかも、幻覚症状で現れたテロップも、たしかHTMLの言語と符号の構成だった。  さらに、不具合PCを修復させたのは、まさに・・その言語や符号が並ぶ修正プログラムのお陰だったのだ。 勿論・・私の脳裏に残された、修正プログラムをPCに正しく並べ替え、入力した人物は、他ならぬ私である。 だとしたら、幻覚症状がPCを修復したことになる。 元をたどれば、満月にもお礼を言わなくてはならないのか?・・  それより、私が恐れるのは・・コンピューター(PC)の不具合の原因もそうだが、もしかして、私の頭脳が誰かにハッキングされたと言うことである。 この修復ドラマを演出したハッカーは・・まずはPCをハッキングして、それに対処しようとする私のスキルの限界と、そのコントロール能力を試したかったのかもしれない。 私を十分に試したそのハッカーが、次は、どのような手段で私を利用するのだろうか?・・それが私の思い過ごしで有って欲しものだ。    コンピューター(PC)の不具合が発端となったこの事件、その修復ドラマが、いかなる恐怖だったとしても・・10年といった歳月の流れとともに・・今の私にとっては、もうどうでもよい色褪せた思いでとしかなかった。
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