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お月見実習
いよいよ、ムーンライトのプロジェクトチームの3人が、月の正体を学ぶべきお月見実習が始まった。
藤原君と佐藤さん・・そして村田こと私、の3人は屋上に準備された、夫々のテーブに資料を積み重ねると、席に着いた。
私『佐藤さん・・今夜は帰られへんけど・・大丈夫?』
佐藤「ええ、私は一人住まいしていますので、帰りが何時でも心配してくれる人が居ないんです」
藤原「そらアカンで・・いつまでも一人はアカン・・せやけど、一人やと落ち着いて勉強できるやろな・・佐藤さんは賢いもんな・・」
私『・・と言うことは、藤原君はかなり勉強して来たんやな?・・君も偉いやんか・・』
藤原「キツイ皮肉ですな・・それではリーダーのお勉強の成果の・・お手並み拝見と行きましょか」
市街地から少し離れた、住宅が隣接する6階建ての社屋は、屋上からの月見をするにはもってこいであった。
周りの建物の殆どが戸建て住宅とあって、ビル群などで実験の邪魔をされる心配はなかった。
私『話に落ちが着いたところで、そろそろ仕事に掛かろうか・・』
私『佐藤さんは、今のテーブルで10分間隔の月の位置と照度を測定してください・・
藤原君は・・そこに準備した10種類のレンズの通過前と通過後の温度を測定してください・・後はその都度、指示しますので、よろしくお願いしますね・・』
私は、青い瓦屋根の住宅を探した、勿論10年前のPC修復ドラマの再現を期待していたからである。
10年前と違い、今夜は、藤原君・佐藤さんの二人の立会人がいる、もし、再現されれば、私の幻覚症状が検証されるかも知れない。
だが、地上6階から見下ろす瓦屋根は、ただの平面としか捉えられず、私の感性をくすぐるものなど何もなかった。
「そう言えば、下見の時は、上空と、遥か彼方のビル群しか気にしていなかった」
折角、双眼鏡と地図を準備してきたのに、私の期待は脆くも崩れてしまった。
私『おう~い・・ちょっと一服せえへんか・・』
藤原「そうですね・・ちょっと疲れましたかな・・」
佐藤「ポットに温かいコーヒーが有りますが・・クーラーボックスには冷たい緑茶も用意してますので・・好きなの言ってください・・私が用意しますので・・」
私『ん~迷うな・・佐藤さん、悪いけど私は温かいコーヒーにします』
暫く雑談が続いた、特に藤原君はまるで佐藤さんとデートを楽しんでいるようにも見えた。
そんな矢先だった、藤原君のテーブルで何かが光って見えた・・しかも動いているようだ。
私『藤原君、君のテーブルのレンズやけど、今、何枚目かな・・』
藤原「確か・・8枚目ですわ・・それが何か?・・あっ、すいません・・レンズが傾いてたみたいで、すぐ直します・・」
藤原君は、慌ててテーブルに戻った。そしてPCに触れた・・
私『あっ藤原君!触ったらあかん!・・レンズはそのままにして、触らないで』
続いて私は、傾いたレンズが示す、光の行き先を探した。
『二人とも見てくれ!・・塔屋の壁や・・ぼやけてるけど、何かが映っているみたいやろ・・何が映ってるんか確かめてくれへんか』
藤原君がセットした8番目のレンズは、この瞬間から、まるで映写機のレンズと化してしまったのである。
私『満月の奴め・・いよいよ、正体を見せたな・・これで私の幻覚も否定されるかもしれないぞ!』
私は迷うことなく、これを満月の仕業と決めつけた。
今夜はどんな情報を私に提供してくれるのだ・・それとも、私の頭脳に入りたいのか?・・ここには、青瓦も大棟も見えないようだが、どうするつもりだ・・満月よ、ハッキリしろ・・これも私の幻覚なのか?・・
藤原「なっ、何ですかこの妙なアルファベットは?・・記号もあるし、気持ちわる」
佐藤「これはインターネットのソースに使われているHTMLの言語ですよ・・」
藤原「二人とも、怖く無いんですか?・・HTMLは分かったけど・・リーダーは、この正体を何で満月やなんて、分かりますのん?・・」
私『佐藤さん、その言語と符号をあなたの携帯に収めてください・・』
私は、まるでこの現象を想定していたかのように冷静だった。
間もなくその言語と符号のテロップは静止した・・
今夜の実験は、月明りのエネルギーの実態を知ることが目的だった。
しかし、すべてが同じではないが、10年前のPC復元ドラマは、少なくとも、私し個人の幻覚症状だけが原因では無かったことも、今夜の満月は証明してくれたのである。なんだか、少し嬉しくなってきた。
佐藤「リーダー・・月明りが発した言語と符号の殆どは携帯に収まりました、次の私の仕事は、この言語を日本語に翻訳することですよね」
私『そうだ・・佐藤さんは、察しが良いので助かるよ・・』
私『は~い、今日はここまでにしよう・・明日は、この符号の翻訳レポートをみんなで分析してみましょう・・佐藤さん、責任重大ですね・・』
初回とは言え、ムーンライトプロジェクトの実験は、私が期待していた以上の手ごたえのうちに終わることが出来たのである。
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