0人が本棚に入れています
本棚に追加
独りは寂しい
「ごめんなさい」
玄関の扉の内側で土下座している遥人。
五分ほど前に突然帰宅した遥人に、誠二は腕を組んで睨む。
頭の良い遥人は、ここでようやく連絡を失念していたことに気づいたらしい。
連絡が取れなくなった二日目の夜、誠二はバイト先の店を思い出した。
そこで遥人の事情がやっとわかったのだ。同居していたことは、住所変更の届出で把握していて個人的な情報をもらえ、警察へ連絡することなく遥人の帰りを待っていた。
「なぁ遥人、俺はお前の実家を知らなかったな。それは俺にも非がある。でもな……」
「本当にごめんなさい!」
いつまでも玄関で土下座されるのも嫌になり、誠二はリビングへ遥人を促す。
座り落ち着き、話を聞こうと思ったから。
「この三日間の話を、聞きたいな。警察へ捜索願い出すところだったんだ。説明してくれるよな?」
状況はそこまで追い詰められていなかったし、事情を知っていたから誠二はあえてこちらから連絡せずに遥人を待っていた。が、それは教えなくても良いだろうと考える。
要するに同居人に心配をかけたことを、自覚して欲しかった。
未来ある青年。しかし、まだ未熟者。
年上だからこそ、キチンと叱らないといけないこともある。
「義理姉が第五子を早産しまして……兄は出張中で……母から手を貸して欲しいと……」
「そうか、それで?」
「母は体が弱く、残された子達を見るのは大変だったらしくて……。本来は出産予定日の前に親戚が来る予定だったんですが……都合がつかなくて、その人が来る三日の間まで手伝っていました」
「うん、お姉さんの出産おめでとう」
誠二は低い声で祝う。
「ありがとうございます。また、連絡を忘れて本当にごめんなさい」
事情を全て話てから、遥人は再び深く頭を下げた。
心底反省している。
そんな遥人を見て、誠二はもういいかと許す。
「今回のペナルティは、今夜の夕食を作ること。それでいいか?」
「そんなのでいいんですか?」
「追い出して欲しい?」
誠二がそう返すと、遥人は慌てて否定する。
「いえいえいえ、心を込めて謝罪を込めて、夕食を作らせて頂きます!」
意外なところで抜けてるんだなと、誠二は思う。基本的に頭は良い。
だからこそ、今回の反省は大きいのだろう。
「誠二さんは、食べたいものがありますか?」
「自分で作ったご飯ではないもの。それから……新鮮な野菜のサラダが食べたいな」
誰かに作ってもらうご飯は、何よりも美味しい。自分のために作ってもらえる幸福感と、誠二では作り出せない味わい。
食事は生きる上で、とても大切なものだと誠二は思う。
今後一人で生きていくと思っていたけど、遥人という同居人を通して考え直した。
誠二と一生を共に歩んでくれる人を、探そうと新たに心へ刻む。
「誠二さん、ご飯ができました! 一緒に食べましょう」
【end】
最初のコメントを投稿しよう!