帰れなくなった俺

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帰れなくなった俺

 元号が変わってお祭り騒ぎをしていた日本も大分落ち着きを取り戻した今日この頃。  しかし俺の住む町は今だに昭和のままだ。 「そこのお嬢さん、今日は活きのいいサンマが入ってるよ! お嬢さん可愛いからオマケしとくよ!」 「あら、じゃあ貰おうかしら」   『お嬢さん』と呼ばれたうちの母ちゃんより10は上であろうオバチャンが嬉しそうにサンマを買っていた。  街角では主婦が買い物袋を持ったまま立ち話をしている。 「消費税がまた上がるわね〜」 「困るわね〜。今年は旅行もいけないわ」 「旅行どころか外食も行けないわ」 「つまらないわね〜。主婦の楽しみって言ったら外に出る事しか無いのにね〜」  夕方の商店街は人で溢れていた。買い物する主婦、これから飲みに行くのであろう仕事帰りの会社員、これから出勤すると思われる派手なお姉さん、そして部活帰りの学生。  俺もその一員だ。俺は高校でバレー部に入っている。まあはっきり言って弱小チームだ。俺は中学から続けてるから1年生にしてエースアタッカーだ。  弱小だけあって人数も少なく、俺以外は背の高い順にスタメンが決まった。が、背が高くても技術が伴っていない。俺がアタックを打ちたくてもトスを上げてくれるヤツがいない。いやそれ以前にサーブレシーブが出来ない。  まあそんなチームだからのんびり楽しく放課後を過ごせる。別にプロになろうと思っている訳じゃ無いから構わない。エースと言う肩書で女子から注目されるというのは嬉しい。あとは可愛い子がマネージャーになってくれたらもっと楽しい高校生活が送れるのにと思っている。 「ドロボー!!」   さっきの魚屋のオジサンが大声を上げた。すると俺の目の前を魚を咥えたドラ猫が勢い良く走って行く。 「コラ〜、待ちなさ〜い!」   その後をいかにも昭和レトロな変なパーマをかけた若い主婦が追いかけて行く。 「お嬢さん、財布忘れてるよ〜!」   魚屋のオジサンがまた大声で叫んでいる。  あぁ、昭和だなぁとその風景をぼんやり眺めながら俺は歩いていた。ふと気付くと俺の目の前は真っ暗になった。凄い勢いで落ちて行くのが分かった。  どうやら俺は蓋の開いていたマンホールに落ちたようだ。  昭和な展開だ……。
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