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しかしいくら落ちてもまだ下に着かない。いい加減着いても良さそうなのだが。
ふとこのまま落ち続け、自分は不思議の国へ行くのではないか、変なお茶会に参加させられたり笑う猫がいたりするのではないかと思ってしまった。
アニメの見過ぎだろうと苦笑した。俺は男だ。アリスでは無い。それにウサギも見ていない。
それにしてもまだ着かないのかと段々不安になってきた。これだけの距離を落下しているとスピードもかなり上がっている。このまま地面に叩き付けられたらどうなってしまうのか。想像しただけで恐ろしい。
俺は気絶する事にした……。
気が付くとそこは元の商店街だった。見慣れた街並み、見慣れた建物。
落ちたと思ったのは何だったんだ。ただ単に貧血でも起こしたのだろうか。体を確認するも怪我も痛みも無い。道端に倒れていたから砂が少し服に付いてるだけだった。
何かキツネにつままれたみたいだと思いながら気を取り直す。
さっきまで鮮やかな橙色をしていた空もすでに星空だ。早く帰らなきゃ母ちゃんに「夕飯抜きだからね!」と言われてしまう。俺は走り出した。
だがちょっと妙だ。いや、ちょっとばかりじゃ無い。かなり妙だ。さっきまで賑やかだった商店街が猫の子一匹歩いていない。商店も全てシャッターを閉めている。え、いつの間に? もうそんな時間なのか。
俺は全力疾走した。
家へ着いた。だが玄関が見当たらない。いつもは出かける時だって鍵なんか掛けないのにこの完璧なまでの防犯対策は何なんだ。一人息子さえも家へ入る事を拒否している。
家の全て、四方八方が壁だ。窓はあるがただガラスをはめ込んだだけで開ける事も出来ない。おかしい。いつの間に改築したんだ。
俺は窓ガラスを叩いた。
「母ちゃん、遅くなってゴメンなさい。謝るから入れてくれよ〜!」
だが俺の声と窓を叩く音は虚しくゴーストタウンと化した住宅街に響くだけだった。
「母ちゃん、腹減ったよ……。入れてくれよ……」
家の中からは何の音も聞こえて来なかった。いつもだったらお笑い番組かなんかを見て母ちゃんが大笑いしてる声が町中に聞こえて恥ずかしいくらいのぼろ屋なのに、今日は物音一つしない。
どうしちまったんだ。うちだけじゃ無い。町から音が消えている。ただ、風の音だけが寂しく聞こえるだけだ。
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