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王妃エメリアからの手紙
愛するわが娘。美しいルシフェルダ王女!
どうかこの手紙を読んで、ご不快になりませんように。
わたしはあなたを産んではいない。それなのに「わが娘」「わたしの王女」などと書くとは図々しいとお思いでしょうね。それでも、わたしのことをゆるしてくださらないと困ります。
これは贖罪の手紙なのですから。
まずはお互いにある心のしこり。一つ目の誤解をとかなければなりません。
あなたの母君はインゴッド四世の正式な王妃でした。優美なるジェルソミナ王妃。
わたしはその侍女という低い身分にすぎぬ者。
決して誘惑などしておりませぬ。わたしは拒んだのです。インゴッド四世を。神に誓って、これは事実です!
しかし、だれがあの方を拒絶しきれるでしょうか?
よく考えてください。
宮廷の者ども……ことに隣国ドルトランドの王子にして人質のレオポルド。私腹を肥やす大臣のベネンファス。大司教でありながら錬金術で王に取り入っているグレアム……などの言葉を真に受けて、わたしを憎んでくださいますな。
うわさを信じてはいけません。
わたしが色仕掛けで王を篭絡し、あろうことか正式な王妃に魔女の烙印を押して死刑に追いやったなどと!
たしかにわたしは、その結果、王妃となりました。
けれども、幸せではありませんでした。
信じてください!
あの一件はインゴッド四世があなたの母君にあきて、王妃のすげかえをたくらんだ茶番劇。わたしは潔白なのです。計画にはまったく無関係でした。
あなたの父・インゴッド四世はみだらな情欲のはけ口として、わたしを欲しがっただけのこと。わたしこそ、あの事件の被害者なのです!
インゴッド四世がいかに悪逆非道な王であるか、あなたにはよくお分かりのはず。
血をわけたわが子でありながら、いいえ、わが子であるからこそ、王はあなたをもっとも警戒していました。
王にとって、あなたは王位継承者という名の王位簒奪者にすぎないのです。
それゆえ、あなたは「謀反人」として捕らえられ、王女という身分でありながら城塞の北にそびえる「魔女の塔」に幽閉されている……。
なんとお気の毒なことでしょうか。
なんともどかしいことでしょうか。
あなたに気持ちを打ち明ける手段が、手紙のやりとりだけというのは。
このよくしつけたかわいい金色の小猿だけが、魔女の塔と王宮をつなぐ手紙の配達係り。
だからわたしはこの小猿に、わたしの誠意と愛を書き連ねて託しましょう。
誤解を解いて「真実の母と娘」として絆を深めたいと考えているのです。
用心深く賢明なルシフェルダ王女。
あなたのことですから、わたしの誠意を証拠として見せろとおっしゃるでしょうね。
わかりました。
その証拠として、いまここに大きな罪の告白をしましょう。
あなたはまだ知りますまいが、インゴッド四世は亡くなったのです。
石造りの自室でベッドに横になって。
あなたもご存知の通り、あそこは暗殺を恐れた王が設計した部屋です。
扉以外に出入り口はなく、光りを取り入れるための天窓があるきりの狭い部屋。扉の外には衛兵が番をしており、侵入者がこっそり忍び込むことはできませぬ。
しかし、そこで王は亡くなっていたのです。
あったのは首筋に針で突かれたような小さな傷が一つだけ。
そうです。
毒針でわたしが殺しました。
すべてはルシフェルダ王女、あなたを自由にしてさしあげるために。
この国の女王として即位させるために。
ですから、わたしを憎んではいけません。
どうそ王宮にもどりしだい、わたしを実の母と思っていつくしみくださいますよう、お願いたてまつります。
あなたの義母、親友として、供に生きたいと思っている忠実なるエメリアより
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