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大臣ベネンファスからの手紙
敬愛する我が王女ルシフェルダさま、ここに一筆もうしあげます。
一昨日の未明、我らが絶対君主にして独裁王とあがめたてまつるインゴッド四世がお亡くなりになりました。
この件は実にデリケートな問題であるため、当然ながら、まだ国民には知らせておりませぬ。
お亡くなりになったのは、石造りのご自分の部屋でございます。
扉と光り取り用の天窓があるだけの密室で、王はベッドに横たわり指を腹の上に組んだ状態でありました。
お時間になってもご起床なさいませぬゆえ、見張りの衛兵が声をかけ、入室してインゴッド四世の異常に気づいた次第でございます。
ご遺骸は衣類の乱れもなく、争ったあともありませんでした。
右がわの首筋に虫に刺されたような小さな傷が見受けられ、あきらかにするどい針のようなもので刺されたとうかがわれます。
王宮内部に暗殺者がひそんでいるのです。しかし、あの部屋に出入りできる人間はごくかぎられております。すなわち
後添えの王妃・エメリア
隣国ドルトランドの王子にして人質のレオポルド
錬金術師でもある大司教のグレアム
そして最高執政大臣であるわたくし、ベネンファスです。
我ら四人、王の自室にそれぞれ出入りしているのです。
エメリア王妃は王のなぐさみものとして。
レオポルドは王の道化役として。
グレアムは王に不死の術をほどこすために。
そしてわたしは国務の相談を持ちかけるため。
入れ替わり立ち代り、わたしたち四人は、それぞれ王とたった二人きりになった時間があったのです。
ここで告白いたしましょう。
何を隠そう、インゴッド四世のお命を奪ったのはわたくしなのです。
執務のことで王とはいつも対立しておりました。
わたくしは長年にわたって、国民を恐怖におとしいれる政治をあらためるべきだと、たしなめてきたのです。
それになにより、あなたさまを魔女の塔からお救いしなければ、と思いつめておりました。
王を殺してでも、わたくしはルシフェルダ王女をお守りたてまつる……。
この一念でインゴッド四世を殺害したのです。
取り急ぎ手紙にてこのことをお知らせするのは、幽閉が解かれたとき、あなたさまが信じるべきは誰かを肝にめいじていただきたいからです。
女王として即位したとき、執政官として有能な者だけがあなたを支えることができるのですから。
賢明なる若き新女王・ルシフェルダさまへ、忠実なる下僕・ベネンファスより
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