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王女ルシフェルダより、辺境にいるアレクソード将軍への手紙
アレクソード! ハトの強い翼によって、この手紙があなたのもとへ届くころ、わたしは女王として即位していることでしょう。
父王・インゴッド四世が暗殺されました。
国民の動揺をおさえるため、王の死は急病によるものと発表します。
そしてわたしは女王として即位します。
取り急ぎ、最初にすることをお知らせします。
王妃のエメリアは隣国ドルトランドの王子・レオポルドと養子縁組をさせて、二人とも僧院に幽閉する考えです。
レオポルドは前王妃の息子となれば、わたしとは義理の兄と妹。血のつながりがないとはいえ、兄と妹の結婚は教会が認めません。それに王妃の養子となれば隣国ドルトランドへ送還する必要もありませんしね。人質は大事ですから。
二人はそんな待遇はいやだとダダをこねるでしょうが、こちらには「王を殺したのは自分だ」と明記した二人の手紙があります。
これを突きつければ、王暗殺の犯人として死刑になるより幽閉されるほうを選ぶでしょう。
こうした手続きは腹黒い大臣のベネンファスと飲んだくれ大司教のグレアムがぬかりなく進めてくれるはずです。
それからすぐ、あなたを王国へ召還します。
辺境の基地をまとめる役目はベネンファスに引き継がせます。
執務官として王宮にいたがるでしょうが、彼もまた「インゴッド四世を殺した」と告白した手紙をわたしによこしたのです。
この手紙を楯に取り、家族も連座で死罪にするとほのめかせば、左遷を飲まないわけがありません。
屈強なザルハード族と盗賊がはびこる辺境で、ベネンファスの身にもしものことがあってはたいへんです。
彼が「何者かによって殺害」されるにせよ「事故死」するにせよ、軍隊の士気をたもち、王国の最前線基地をまとめられる、心きいた副官をそばにつけてあげてくださいね。
ええ、魔女の塔にいても、情報に不自由はありませんでした。
王宮の侍女や衛兵たちだけでなく、わたしに手紙をよこしてくれる友人たちは街中にいますから。金色の小猿のレッシーが手紙の受け取りや配達に活躍してくれていたのです。
それから大司教のグレアムですが、この男はまだ大役が残っています。
わたしとあなたの結婚式を取り仕切る役目が。
そんな大役を果たしたあと、きっとあの老人は有頂天になることでしょう。なにかが混じっている大酒をたらふく飲んで、天国へ召されるように手配します。グレアムの魂は腐った教会にはびこる悪癖とともに昇天するのです。
そうそう、錬金術で調合した毒薬のことも、これで闇の中。
だれもが手紙で「インゴッド四世を殺したのは自分」と主張して、わたしの歓心を買おうとしていました。
インゴッド四世の自室の天窓から、わたしのかわいいレッシーが毒を塗った針をつかんで侵入したと、だれも気づかないのが不思議でした。
(了)
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