スターダストの集合体

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 お疲れ様です。ポスターが完成したのでご確認の上、問題がなければそのまま印刷お願いします。丁寧な二行の下には、長方形の画像が添付されていた。所属バンド「STAR」のポスター画像だ。四人の立ち姿のシルエットとそれぞれの名前がローマ字で入っている。ど真ん中には「STAR」と絵具の筆で力を込めて勢いよく書いたような黄色の筆記体。  左手に提げているソフトケースを持ち直す。中にはキーボードが入っていた。今日、正確には昨日、新宿のライブハウスでライブだった。他のバンドもいるので、一バンドあたり五曲が限界だったが、「STAR」を目あてにきてくれていた客も多くいたらしい。あとで運営から聞いた。  車輪がレールをこする音が響き渡った。風が全身をなでる。電車が通過するのを待っている人はこちら側にはいなかった。向かいには一人いたのを見ている。現在時刻、二十四時五分。真夜中だ。くもっている。連日はっきりとしない空模様が続いていた。  夜分遅くに返事が遅れてごめんね。ありがとう。メンバーにもあとで確認を取るけれど、僕個人としてはすごく嬉しいよ。こうあってほしいと思っていた部分が見事に再現されていて、きっとメンバーも驚いて喜ぶと思うよ。ありがとう。また機会があったら頼むかもしれないけれど、そのときはよろしくね。文面を作成し、後輩に返信する。  警報器の音が止まった。夜闇に静寂が降りる。機械音を伴って、遮断機が上がった。携帯を閉じて黒ズボンのポケットにしまう。ソフトケースを再び持ち直し、顔を上げる。  だが、一瞬動けなかった。向かいの線路の外で人が倒れていた。  最近、物騒だから気をつけろよ。帰り際にリーダーから忠告されたことを思い出す。街灯がなく空も厚い雲に覆われているので、よくは見えない。自然と足が動いた。かたわらで立ち止まる。スーツを着ていた。中腰になり、大丈夫ですか。声をかける。うめき声がした。内心で舌打ちする。酔っ払いだろう。構っていても仕方がない。面倒なだけだ。  立ち去ろうかと考えて、やめた。  キーボードを地面に置き、しゃがみ込んで確認する。目をみはった。反射的に立ち上がり、何歩か後退する。ズボンを何度かたたく。硬い感触にたたく手を止めてポケットに手をつっ込み、携帯を取り出した。受話器ボタンを押して、一一九と打ち込む。手が震えていた。事件ですか、事故ですか。ほどなくして、受話器越しの質問が飛ぶ。足元を見下ろす。  すぐに答えられなかった。 「わかりません」  どうにか絞り出した答えは、ほぼ吐息だった。目が、倒れている後頭部を捉えて離さない。光の乏しいところでは、黒に見えた。 「線路で、向かいで」  うまく文章が作れない。混乱しているのが自分でもわかった。深呼吸をしようかと空気を吸い込んだとき、鼻腔を独特の臭いがついた。
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