「手紙」

2/5
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
それは僕の思い上がりでも何でもない。 人が人を愛する気持ちは伝わるものだと・・ 彼女が身を持って教えてくれたような気がした。 彼女は、 僕が何気なく言った言葉や、僕のなんでもない仕草に対して、 「どうして、あなたはそんなに優しいの?」と、訊いた。 そう言った時の彼女の顔はなぜか、僕には泣いているように見えた。 だが、僕にはそんな彼女の言葉が、全く理解できなかった。 僕は自分のことを優しいとも何とも思わなかった。 そんなK子との関係が長く続くはずもない。 短期間で別れることになった。 別れた原因の100%は僕の方にある。 その頃の僕には、 彼女の包み込むような優しさが、ただただ鬱陶しかったのだ。 僕のそんな心は、先を急ごうとする若さゆえのものだった。 僕の周囲には、未来には、 K子以外の素敵な女性、僕に相応しい人が待っている。 そんな風に、 子供のように期待しながら、僕は未来の扉を開けようとしていた。 だが、 未来というものは、自分の思い通りには開けていかないものらしい。 特に、僕のように誰かを傷つけて進もうとする者には、 未来は冷淡だ。 そんな冷遇された未来の人生にはロクなことはなかった。 不慮の出来事、 大きな災害に、人災・・僕自身や、僕の周囲に不幸は続いた。 そんな中、 とっくに別れたと思っていたK子とは、 それっきり、一度も会うことがないはずのK子とは・・ ・・終わっていなかった。 僕たちは、別れても、K子の方は終わっていなかったのだ。 僕の心はK子とは離れていても、 僕は、K子の中で生きていた。 その証拠を示すように、別れてからも、 僕の人生の過程で・・その節目節目に手紙や葉書が僕に届いた。 手紙はK子からだ。 何度も何度もK子から手紙が来た。 年が明けると、年をとったことを知らせるように葉書が来る。 共通の知り合いに何かがあると、その度に、知らせてくる。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!