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ガーランドの赤い月
穏やかな秋晴れの空の下、キャンパスは学生達の話し声や笑い声に満ち溢れていた。
褐色の肌と青い目をしたガーランド人の中に混じり唯一の東洋人がいた。その名は、
ラーズヒヤ・コウダイ・キトウ。
ガーランドに帰化した日本人の両親の間に産まれた。
父は現王の腹心・ヨシト殿下と、日本人学校で教鞭をとる篤人。二人は実の兄弟でもある。
母は未央。両性具有に産まれ、ヨシト殿下と篤人と結婚し六人の子宝に恵まれた。
15年前にそれまで孤児院がなかったガーランド王国内で初となる孤児院『ハナサクラ』をはじめ、皆から、マザー・ミオと呼ばれ慕われている。
母親譲りの黒目がちのくりくりとした大きな双眸に中性的な顔立ちを持つコウダイ。背が小さいせいか女の子とよく間違われている。
「コウダイおはよう」
在籍する教育学科のクラスメイトがコウダイの回りに自然と集まってきた。
「今夜空いてる?」
「サークルの飲み会があるんだ。コウダイが好きっていう女の子がいてさぁ、紹介してくれって頼まれているんだよ」
「ごめん用事があるんだ」
国民たちの血税を湯水のように使い、王族たちは贅の限りを尽くした生活を送っていた。
貧富の差がますます広がり、現政権に不満を抱く学生らが各地でデモを起こし、レジスタンスの活動も活発化し、国内情勢は刻一刻と悪化していた。ヨシト殿下は、妻子と施設の子供たちの命を守るため日本へ避難させる苦渋の決断を下した。
今夜ひそかにガーランドを発ち、マレーシアを経由し両親の故郷である日本へ向かう予定になっていた。
そのことはもちろん誰にも内緒だった。
「ラーズヒヤ」
名前を呼ばれ振り返ると、クラスメイトたちの後方で一番の仲良しのユキヤが笑顔で手を振っていた。ハナサクラで共に育った仲間であり幼馴染みだ。
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