第三章 爛れたお菓子の家

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   三、 「勝手に現場を離れて申し訳ありませんでした」  現場に戻った御伽は、不機嫌な顔で待ち構える金森にすぐさま頭を下げた。普段から奔放な態度で周囲を振り回す御伽ではあるが、流石に途中で仕事を放棄してしまった状況で平然と現場に戻る気はない。  いつになく殊勝な態度を見せる彼女に、出会い頭に叱りつけようとしていたらしい金森は拍子抜けした顔を浮かべた。 「次からは気を付けろよ」  咳払いをした金森はそれだけ告げ、無理に詮索することはなかった。御伽の頬に微かな涙の痕を見付けてしまったせいかも知れない。指摘されたら欠伸の名残だと誤魔化すところだが、金森は元気のない彼女の様子から勘を働かせ、見ないふりをする選択をしたようだった。  それからすぐに、御伽達は青山兄妹が通う小学校へと向かった。  普段と異なる御伽に居心地の悪さを感じていたのか、金森は車内では始終無言を貫いていた。お蔭で嫌に湿っぽい雰囲気となっている。  ここで御伽が気を利かせて会話を始めればその空気も払拭出来たかも知れないが、何事にも我関せずな彼女にそういったことを求めるのは無駄だ。  いつもと違って妙に静かな二人を乗せたセダンは、学校に辿り着くまでエンジンの音だけをひたすらに響かせていた。
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