第一章 ひび割れたガラスの靴

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 その後、科捜研の研究室を後にした御伽達は、捜査一課の執務室へ戻った。土屋達と情報の照らし合わせを行うためだ。 「月島姉妹は現在入院中でな。長女の方には話を聞くことは出来たんだが、次女は父親の死を知って錯乱してしまって、担当医から追い出された」 「入院って、事故にでも遭われたんすか?」  御伽の問い掛けに、土屋は渋い表情を浮かべる。 「一ヶ月前にトラックとの衝突事故に遭ったようだ。幸いにも命に別状はなかったんだが……」 「酷い怪我なんすか?」 「脊髄損傷による下半身不随と、割れた窓ガラスで眼球を傷付けて視力も失っている」 「二人とも?」 「ああ。偶然にしても酷い有様だ。二人にとって毎日見舞いに来る両親が支えだったと担当医が話していた。姉の方は気丈に振る舞っていたが、父親が死んだと聞いて随分とショックを受けていたようだ。見ていてやるせなかったよ」  同情しているらしい彼が深い溜息を吐いた。その向かいに立つ御伽は、顎に手を当てながら考え込む。 「本当に偶然っすかね」 「何?」 「その事故の詳細について、少し調べさせて下さい」  急な注文に驚きを見せた土屋であったが、こちらに考えがあると察してくれたようだ。 「分かった。資料を回して貰えるように頼んでおこう」 「ありがとうございます」  隣で金森が物言いたげな視線を向けてくることに気付いていたが、ひとまずの報告を終えた御伽は何食わぬ顔でその場を去った。  慌てて後を追いかけてきた金森が、廊下に出たところで彼女を引き留める。 「おい。交通事故が今回の件に関係すると見てるのか?」 「立て続けに事故が起きているなんて怪し過ぎるじゃないっすか。それに……」 「それに、何だ?」  金森が訝しげに御伽を見た。 「姉達は目を抉られ、足が不自由に。そして主人は首を吊って亡くなる。何処かで見た状況だと思いません?」 「何処かって、何処だよ?」  残念ながら金森には思い当たるものがなかったようだ。肩を竦めた御伽は答えを返すことなく、再び歩き出す。背後から頻りに追及する声が聞こえたが、それには一切答えず、やる気のない様子でひらひらと手を振った。 「それより伊吹と君枝さんの事情聴取が残ってます。早くしないと置いていきますよ」 「あ、おい。待てって」  追いかけてくる足音を聞きながら、御伽は真っ直ぐと駐車場を目指す。その表情は普段と異なり、何処か険しいものに変わっていた。
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