月光と雪うさぎ

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それから20年後、悠生は孤児院の先生になっていた。 その孤児院のある場所は、あの湖のある観光地に近い郊外の町で、毎年年末になるとみんなであの湖でうさぎを見に行くことがこの孤児院での恒例行事になっていた。その恒例行事を作ったのは悠生だった。 また、あの湖は雪うさぎが現れなくても、夜に月明かりにその湖面が照らされているだけでも十分絵になるので、秋の夜には月見の時に孤児院のみんなで訪れたりしている。秋の夜には月明かりが湖面を照らすだけではなく、暖色系の色に染まった紅葉が湖面に落ちることでさらに湖の美しさを引き立てる。 さらに、春の桜の咲く季節には湖面にピンク色の桜が落ちることで、夜になると月影に照らされた湖の美しさだけではなく、夜桜の美しさも楽しめるので、秋の紅葉とはまた別の楽しみを味わうことができる。 悠生は、20年前の父との大切な旅行の思い出は今でも忘れていない。いや、忘れたくないのだ。 あれから、悠生の父である聖夜は悠生が小学4年生の頃に病気で他界し、悠生自身も孤児院に引き取られた。彼は孤児院の先生たちにはお世話になり、本当に幸せにしてもらったので次は自分が孤児たちを幸せにする番だと思っているのだ。 今、孤児院の者たちの間では、あの湖は月光の湖と呼ばれている。
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