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「兄たちも色々手伝ってくれたりして。だからほら、プレゼントも沢山届いてただろう? あれね、僕と晶の記念日に兄たちが寄越したものなんだ。さっきもカードに光稀が書いてあった通り、錠剤とこのオイルを併用してみたんだよ」  息子も息子なら親も親。兄弟も兄弟だ。この男が晶にフラれることは一切考えていなかったらしい。  更に理人が迫り、晶を押し倒す。真正面に綺麗な理人の顔。  いつになくキラキラしていて、甘ったるい雰囲気と蕩けそうな笑顔に心臓が早鐘を打ち始める。一度出して静まっていたものが呼び起こされて、体の奥が淫らに疼いた。あの感覚が抜けきらない。  すかさずキスしてこようとする理人に、晶は尋ねた。 「……俺の返事、訊かねーの?」 「晶が僕のこと好きでいてくれたってこと?」 「勝手に決めるな」 「でも違わないだろう?」  返事に困る。事実そうなので、凄く悔しい。  顔を背けてむくれていると、ひどく嬉しそうな声が寄越された。耳に触れる熱い吐息と囁く声が、ぞわり、肌を痺れさせる。 「僕の知ってる晶は、好きでもない男にこんなところを舐めさせないよ」  長い指先が無防備な屹立に触れて、晶は息を詰めた。体を屈めてキスをされ、シーツに爪を立てる。  そうだろう? と目を細められて、答えに迷った。何もかも見透かされている感じに腹が立つが、本当にその通りなので何も言い返せない。 「っ、ぁ……それ、待っ、ぁ、ぁ……ンぅ」  濡れそぼつ襞に、小瓶の中身を手に取った指を理人が宛がった。入ってくる指先に、一度快感を覚えた内壁が勝手に収斂する。  足先の力が抜けるような、痺れるような、独特の感覚。快感を得た箇所をコリコリと指の腹で擦られ、晶は完全にベッドへ縫い留められてしまった。  自分の下肢から聞こえる生々しい水音。粘着質なそれがかき鳴らされるたび、せり上がってくる快感。これが気持ち悦いのだと教えられ、薬の効果もあって晶の体はどんどん火照ってゆく。 「は、ぁ……ぁ、ぁ、ア、ぁ……ン」 「もう一本、増やすよ」 「待って、まだ無理……む、り……、ぁ、っ、駄目だって、……っ」  襞の感覚がやけに鈍いのに、内壁を擦られる感触は鮮明だ。難なく入ってきた指が三本。無造作に中をかき乱され、大きく腰が跳ねた。  視界の端で勃起したものが、ぷるん、と揺れる。ほとんど屹立には触れられていないのに、そんなところに指を入れられて質量を増している事実が信じられない。  全部薬のせいにしながら、晶は顔を寄せてくる理人に睫毛を伏せた。当然のように重なる唇と、滑り込んでくる舌先。  ずっと好きだった男と、キスをしている。理人とキスをしている。  シーツを掴んでいた両手を理人の首に回すと、ほんの少し顔を上げた理人が嬉しそうにはにかんだ。  角度を変えて重なる唇と密着し合う体。敏感な口蓋を舐められ息が抜けた。淡い快感に中の指を締め付け、まるでそれが合図かのように理人が前立腺を擦ってくる。  徐々に強く、擦るのではなく突き上げてくる指先に晶は甘く戦慄いた。突かれるたびに快感が溢れ、内壁は貪欲に理人の指を締め付ける。 「ァ、ァ、ァ、そこ……、ぁ、理人……っ」  喉を反らせ、だらしなく唾液を垂らしながら快感に浸かる晶に、理人がツンと立ち上がった赤い突起に舌を這わせた。粟立つ肌に内壁がきつく締まり、音を立てて吸われて腰が浮く。  胸をしゃぶられながら締まったままの内壁を強引に擦られ、甘ったるい声がとめどなく響いた。突き出した胸を甘く噛まれる。それすら強く感じて、初めて知る快感に困惑した。  付き合っていた彼女と何もなかったわけではないし、それなりに晶だって経験してきた。だが、他人のものを体の中に受け入れたのは初めてで、何よりこんな激しい快感は知らない。 「……晶。今、何考えてた?」 「え」  昔の彼女のことを考えていました。なんて言えるはずもなく黙っていると、目を逸らしたのが拙かったらしく理人から笑顔が消える。  背に走る、悪寒にも似た冷たい電流。フォローを入れようと口を開いた晶だったが、理人はそれすら許さなかった。 「ヒッぁ、ぁ、ぁ、ッ、ああああッ、や、やぁッ、ちが、あぁぁっ」  指で擦られる摩擦とそのスピードに、理人が塗り付けたオイルが激しく飛び散る。粘着質なオイルが泡立つほど激しく擦られ、全身を真っ赤にして喘いだ。  晶のあられもなく乱れる様を眼下に、理人の嫉妬まみれの声が届く。 「駄目だろう……僕以外のことなんて考えちゃ」 「アァッ、ぁ、ぁ……ッ、だっ、だって、こんな気持ちいいの知らな……っ、許し……、ァ、ァッ、許して……ッ」  荒れ狂う快感が、ピタリ、止む。  息も絶え絶えにベッドの上でぐったりしていると、理人が汗ばんだ晶の髪を優しく撫でてきた。 「そうだったの? なんだ、ごめんね。てっきり昔の女のことでも思い出してるのかと。……違うよね?」 「ち、違イマス」  おもいっきり嘘だったが、嘘も方便だ。これ以上この男を刺激するのはマズイ。なおも疑いの眼差しが刺さってきたので、晶は自分から顔を寄せて理人にキスをした。 「好きだぞ、理人」  すると花のかんばせが光り輝くように綻び、顔中にキスを返される。一先ず窮地は脱したようで、安堵に胸を撫で下ろした。が、間髪おかずに美貌が暗い影を落として嫣然と怪しく歪んだ。  息を呑む。首の根に唇が迫り、熱い吐息が触れた。 「あまり、嫉妬させないでね? 愛してるよ、晶」  ちゅ、と。喉仏の下に触れられて、喉奥が窄まる。  これは、とんでもない男に惚れられてしまったのかもしれない。初恋云々が事実かどうかは知らないが、相当嫉妬深いことだけは確かなようだ。  微笑む理人を見上げ、苦笑する。惚れたせいなのか、そんな理人が可愛いと思えてしまうから不思議だ。周りが完璧だと豪語する男にこうも嫉妬させるのは、悪い気がしない。 「お前も浮気すんなよ? 素振りでも見せたら、俺、すぐ捨てるからな。復縁はないぞ」  笑顔で宣言すると、理人は顔色を変えて小さな顔を何度も横に振る。 「しないよ、絶対にしない」  焦った顔が可愛くて髪を撫でれば、安堵した様子でキスをされた。  ゆっくり指が引き抜かれ、互いに抱き締め合い深く口づけを交わす。皮膚の薄い部分に鬱血を刻まれながら、晶も理人の肩や首筋に甘く歯を立てた。  絡み合うだけでは焦れてきた頃、理人が腰を押し付けてくる。猛った熱に睫毛が震えた。 「晶の中に……入れて?」  大きな手のひらが腰から臀部にかけてゆるやかに上下し、晶は緊張と期待に頬を染めながら小さく顎を引いた。そして、今更ながらに気付く。何故自分が当然のように受け入れる側なのかと。晶とて男だ。もちろん、立場は逆がいい。 「あのさ、理人」 「ん?」 「俺が入れる方でもよくない?」  沈黙が落ちる。  この提案は予想外だったのか、理人の視線が面白いように揺れ始めた。 「あ、いや、うん……そ、だね。でも、その……今日は、何も準備もできてないし。できたら……今回は、僕が」 「じゃあ次は、俺でもいいんだな?」  面白いくらいに返事がない。眉間に深い皺が寄っている。理人の葛藤が見て取れて、なんだか貴重なものを見ている気がした。  晶は苦笑して、まぁいいか、とスイッチを切り替える。自ら足を開き、理人のものを指で撫でた。  こんな薄っぺらい体に、理人が欲情している。なんの凹凸もない体を欲してくれている。それが嬉しかった。受け入れる側でも悪くないと思えるから、恋って不思議だ。 「優しく、しろよ?」  男の矜持を殴り飛ばして、濡れた襞に触れてみる。理人が散々ほぐしていたので大丈夫だと思うが、こんな太いものが本当に入るのだろうか。 「うわっ?」  目の色を変えた理人が、膝を抱えて亀頭を押し当ててきた。一体何にこうも興奮しているのか分からなくて、戸惑う。  覆いかぶさる大きな影。体格差を痛感しながら、水音を立てて男のものが割って入ってきた。襞を押し広げられる感覚と、内臓を圧迫する独特の感覚。双方ともに初めての感覚で、晶は息を逃すだけで精一杯だ。  理人がすかさず晶の屹立に手を伸ばし、扱き始める。苦痛と快感がない交ぜになり、晶は額に汗を滲ませた。  ベッドに体を沈め、なるべく力を入れないようしていたが、入ってくるものの太さと長さに恐怖心が勝ち始める。昔の彼女もこんな気分だったのだろうかと考え込みそうになって、慌てて現実に引き戻した。  恐々理人を見てみると、真剣にこちらの顔色を伺う彼の顔がそこにあった。 「痛い? ごめんね、……もう少しだけ」  正直、オイルのせいかそんなに痛くない。圧迫感がひどいだけだ。  無性に頭を撫でたくなって、両手で理人の頭を撫でた。 「平気だから。そんな痛くない。……オイル?」 「多分。光稀が絶対に大丈夫だって言ってたから。良かった……」  唇を啄みながら、やはりただのオイルでなかったかと知る。薬云々と言っていたが、今だけは佐賀美家の三男に感謝しておく。これがなかったら、絶対に痛かった。  襞の感覚は鈍いのに、中はひどく熱い。内壁を押し拡げながら半分まで挿入し、理人が伝う汗を拭った。負担は晶の方が大きいのに、強引にでも突っ込みたい男の性と晶を傷つけたくない想いがぶつかって、やけに疲弊している。  ただ、好きに動けと言ってやれるほど晶に余裕があるわけでもない。ここは一つ理人に耐えてもらわねばならなかった。互いに息を吐きながら、体の奥深くで繋がるまで耐え続ける。そうやって、やっとものの半分以上を挿入した時、理人が動きを止めた。  これ以上ないほど限界まで拡がった襞。切れていないのが不思議なくらいだ。さすがにここまで挿入されると痛いし、苦しい。 (ぁ、つ……)  理人のものが体の中で脈を打ち、主張してくる。熱いくらいの体温に、晶は汗で張り付いた前髪をかき上げた。少しでも苦痛を逃がしたくて、萎えた屹立を扱く。直接的な快感は効果的で、上手く痛みを逃がしてくれた。  中でドクドクと脈打つ理人のものを甘く締め付けて、深いキスをされる。キスの合間に漏れる理人の吐息が少し荒い。動きたいのを相当我慢しているのが同じ男として分かった。 (こいつ、こんなに我慢してんの初めてなんじゃ……)  理人は本当にモテるから、彼と出かけるとたまに元彼女だと名乗る女性たちとたまに遭遇した。同じ年くらいの子から四十代近くの女性まで、年齢は幅広く皆とても綺麗だった。  彼女たちから付き合っていたと自慢げに話されるたび、笑顔で挨拶して心の底で落ち込んでいた。晶の前で復縁を迫る女性も少なくなかったから、空気を読んで退散しようとしたこともあった。だけど、決まって理人が不安そうな顔をして引き留めるので、それ以上は動けなかった。  段々、理人は車を使った遠出にばかり晶を誘うようになった。それでもやっぱり理人は目立つから、たくさん声をかけられる。邪魔だといわんばかりの視線。晶が距離を置くと、問答無用で車の中に押し込められた。最終的には理人が一人暮らしを始めたマンションで過ごすことが多くなり、今日は本当に久しぶりの外出だった。  どうやら彼なりにとても一生懸命、晶を口説いてくれていたらしい。まったく気付かなかったが。  大きく息を吸い込んで、吐き出す。深呼吸を繰り返して、理人の名を呼んだ。  濡れた視線が熱くこちらを射抜く。それへ一つ頷いて、そっと引き締まった腰を撫でた。理人の腰が揺れる。触れた肌は予想以上に熱く、さらに質量を増した理人のものに目を眇めた。  これは、少々早まったかもしれない。 「ゆっくり、するから」  汗を腕で拭って晶の白い脚を撫でる理人。もう拒むことはできなくて、覚悟を決める。怖くないと言えば嘘になったが、今は彼を優先させたかった。  小刻みに律動を始める理人が、真っ直ぐにこちらを見下ろしてくる。痛くないか心配なのは分かるけれど、これはこれで恥ずかしい。気恥ずかしくて顔を背けると、耳を舐められた。 「っ、ぅ……ン」 「晶の中、凄くあったかい」 「言う、な……て、っ、ぁ」
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