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 オイルの甘い匂いと汗の匂いがいやらしく香り、耳元で蕩けそうな声が官能を纏って囁く。下肢の水音は律動に合わせてリズムを刻み、襞を捲るような痛みと柔い粘膜を擦る快感が晶を甘く(さいな)めた。  理人が晶にも快感を追わせようとしてくれるのは分かっていたが、元々何かを受け入れる器官ではない。苦痛が勝って当然で、晶は屹立を擦りながらなるべく早く終わってくれることを心密かに願っていた。 「……?」  ただ、そんな生易しいことを考えていられたのは、最初の十分程度。  じわり。じわり。擦られる内壁に淫らな異変。  熱い。とにかく、熱い。困惑するくらいの熱さが、中を擦られるたびにひどくなる。優しい腰使いが物足りなさを生むまでそう時間は要さず、屹立を擦るのも忘れて息を乱した。  晶の異変に理人も素早く気付いて、こちらの様子を伺いながら腰を押し付けてくる。 「あぁっ、ア、ぁ、ぁ、ン……っ」 「ここ?」 「ぁ、違、いやだ……っ」  そうは言うが、理人が素直にやめるはずもない。晶の表情を確認しつつ、下から上へ突き上げるように腰を穿ってきた。熱を帯びた内壁を亀頭がゴリゴリと押し上げ、腰からつま先まで言葉にし難い感覚が一気に走る。のけ反って喘げば、理人の腰使いが徐々に甘さを削ぎ落していった。  突かれるたびに全身へ広がる愉悦。中央のものもガチガチに硬くなり、理人が晶の両足を抱え直した。段違いの深さと速さに、体が予想以上の順応ぶりをみせて痛みより快楽を優先させる。 「り、ひと……っ、ぁ、そこ、ぁ、そ……こ、ぁっ、待……っ」  一度火のついた体は既に晶の抑止などものともせず、貪欲に理人の寄越す快感を貪ろうとする。  両手を晶の脇の下に差し入れて肩を掴み、そのままグッと腰を押し付けられて一瞬泣きそうになった。痛いのではない。気持ちが悦すぎてどうしていいのか分からなかった。  体の深いところで脈打つ男のものが、まだ奥へ入って来たがっている。それに甘い困惑と歓喜を覚え、晶は下りてくる理人の唇を淫らに受け入れた。  かき鳴らされる口腔と襞奥。わざとなのだろう、羞恥と快感を煽ってくる理人に晶は重い両腕を上げて彼の背に回した。  「ン……、ぁ……ぃ、ぃ、っ……ぁ……」  きつく抱きしめられながら抽挿されて、濡れた吐息が唇から零れる。薄く開いた瞳の先に理人の食らいついてきそうな強い視線があって、晶は恥ずかしそうに顔を背けた。 「見るな、よ……ぁ、や、ぁ、ぁ……嫌、見な、っ……ぁ」  恥ずかしさは歪な快感を生み、内壁が勝手に彼のものを締め付ける。 「今、締まったね。見られるの、好き?」 「違う、ちが、ぁ……、ン、ン、ぁ、ぁ、ぁ、凄……っ」  違うはずなのに、感じ入った顔を見られながら腰を使われる羞恥が妙にたまらない。  何もかも、全部理人にはバレてしまっている。顔を背けた晶の顎を掴んで正面を向かせ、晶の感じる箇所を中心に抉ってきた。 「ほら……ここ、気持ちイイね? ちゃんと見せて?」 「ぁ、ぅ……ぁ……、ぁ、ア……っ」 「可愛いな、本当に可愛い」  腰を押し付けたまま揺さぶってくる理人に、晶はだらしなく口を開き眉根を寄せる。ゾクゾクとした快感が留まることなく全身を駆け巡り、それらは従順に晶を泣かせた。  腰が激しく打ち付けられる。肌と肌がぶつかり合う音と結合部から聞こえる粘着質な水音。生々しい抽挿に比例して、せり上がってくる快感。本当に理人に抱かれているのだと、リアルな感覚が胸の奥を支配する。  男としてどうだ、とか。女の子みたいな声を出して、だとか。色々思うところはあるけれど、こうも愛おしそうな顔をして自分を抱くのは多分この男ぐらいなものだろう。  オイルの匂いも一層強くなり、まさに噎せかえるようだ。気化した媚薬成分が晶の無防備な体を甘く蝕み、それにいち早く気付いた理人が動きを変えた。 「もう少し……いい?」  言うが早いか、理人が晶の下肢を高く浮くほどに抱える。 「ッッ」  声なんて、出なかった。歯を食いしばってそれに耐えた。骨盤が抜けるのではないかと錯覚しそうな荒々しい腰使いと、的確な抽挿。これでもかと寄越される壮絶な快楽。晶は、全身でよがった。  視界が歪む。どこを見ているのかも分からない。気持ちが悦すぎて薄く白濁が散る。イってるのかそうでないのか、区別がつかないほどの快感。  腹の奥から蕩けそうな愉悦が広がり、獣のように激しく喘ぐ。  恥じらいや愛らしさなんて微塵もない。そこにあるのは純粋なまでの快楽だ。 「奥ダメっ、奥ダメ……、ダメだってぇ……アァァァッ」  弓なりになった体が大きく痙攣し、たったひと撫でしただけないのに白い肌に更に白い体液が散った。断続的に吐き出される体液。しかし晶の様子は普段と大きく異なっている。  イったのに、終わりがない。終われなかった。 「あ、ぁ、や、……また……なんで、なん、で……っ?」 「いっぱい、突いてあげるから」  ビクッ、ビクッ、と。懇願に近い悲鳴は虚しく散り、さきほどより薄い体液が早々に晶の上で飛び散った。  真っ赤になった亀頭が震え、痙攣する下肢を深く折り曲げて理人がほとんど真上から男根をねじ込んでくる。 「ヒッ、ぐ」 「あぁ……この角度、入るな……」  汗ばむ臀部と腰骨がピッタリと重なり、そのまま揺さぶってきた。  初心者の、今日初めて男を受け入れた相手にしていいような体位ではない。  晶は息も絶え絶えに未だ疼く体を理人に預け、容赦なく突き下ろしてくる。  またイッたのか、晶の体が震えた。亀頭の先から溢れる程度の体液が、小さな体の限界を物語っている。もう理人が体を撫でるだけで晶の体は反応し、赤く尖った胸を抓むと意識せず内壁が屹立をきつく締め付けた。 「あぁぁ……や、ぅ……ぁ、ぁ、ん……っ」  半濁する意識下で、晶は理人が真っ直ぐにこちらを見下ろしているのが分かった。こんな無様な顔を見て何が面白いのか、まったく萎える気配もなく晶を見つめている。 (無……理、も、……むり……)  連続して寄越される快感の波に、終わりが見えてこない。疲弊する体は本当に限界で、連続で吐精させられて亀頭は真っ赤だ。  クラクラして、もはや何を口走っているのかも分からない。理人を罵っていた気もするし、許しを請うていた気もする。  荒い気遣いがすぐ傍で聞こえた。終わりにしてもらえると思ったのに、理人は晶を抱き起して膝に座らせるとまた下から突き上げてきた。  既に体は支えていられないほどで、理人が両腕に抱いたまま腰を押し付けてくる。時折キスをされて唇を吸われながら、大きく体をしならせた。 「い、く、また……イク、イクイクぅ……ッッ、ぁ、ぁ、ぅ……ンンッ」  屹立が小さく震えただけの絶頂。 「止ま、な……っ、やら、や、アア……、いっ、く、っ……ひ、ぁ……!」 「可愛いよ、晶」 「や、ら……って、やらぁ……っ、おかしくなる……っ、や、や、も、本当に、お願っ、ンンッ、突くなぁぁ……っ」  息が苦しい。イキっぱなしで呼吸が間に合わない。 (殺、される……っ)  遠のく意識で確信めいたことを考えつつ、晶は我が身を守るために最後の力を振り絞った。  感覚の鈍い両手で理人の頬を包み、下りてきた彼に口づける。甘く啄まれ、晶は顔を彼へ擦り寄せた。 「も……イッてっ、早く……出して……っ」  否定的な台詞を聞きたくなくて口づけを深くすると、理人はそれに応えてくれた。晶をシーツの上に横たえ、髪を撫でてくる。吐息の触れる距離で、唇が静かに尋ねた。 「奥に、いい?」 「いい、……いいから、も、早く……っ」  終わってくれるのなら、何でもよかった。  そんな晶の心情とは裏腹に、理人は嫣然と怪しい笑みを浮かべる。 「――ッッ」  締め付ける内壁を押し拡げる屹立が、きっと入ってはいけないような部分にまで届く。両足が痙攣し、晶はほとんど意識なく理人の背を力いっぱい引っ掻いた。  目の前が真っ暗になる。快感の底へ引きずり込まれる錯覚と、腹の上が生温かいもので濡れる感覚。それを最後に、晶は完全に意識を手放した。
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