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 どのくらいそうしていただろう。頭上から声がかかった。  顔を上げると、三人組の若い女性が心配そうに晶を囲んでいた。頭の芯がボンヤリして、助けを求めようにも声が言葉にならない。  一人がスタッフを探しに駆け出した。が、それを止める声があった。  立てた膝に額を当てて熱を持て余していると、知った声に背をさすられる。  体が浮いた。抱き起されて目を開き、散々見てきた美貌にホッとする。逃げてきたくせに、安心している自分が惨めだった。  彼は三人にお礼を言って、晶を横抱きにしたまま歩き始めた。抵抗して体を捩ってみたが、強く抱かれ直されてどうにもならない。  戻った先は、やはり例のホテルだ。 「理人様! あぁ、晶様……っ。本当に良かった!」 「優里亜さんは?」 「今は別のお部屋に」 「父さんには連絡したな?」 「はい。すぐに迎えを寄越すそうです」  早歩きでフロアを突き抜けながら鷹揚に頷く理人と、エレベーターを用意しに走って向かった神田。開かれた扉に入り、部屋へと戻る。 「しばらく部屋には、誰も近づけるな」 「畏まりました」  重いだろうに、そんな気配を微塵も感じさせない理人は晶を連れて二階へ上がった。リビングの奥にある一番広いベッドルームに運び、静かに寝かせる。  丁寧に靴と靴下を脱がせ、既に用意されてあったタオルを手に晶の汗を優しく拭き始めた。ストローを刺したボトルから水を飲ませてくれて、汗に濡れた服も脱がせてくれた。  変わらず晶の世話を焼いてくれる彼に、申し訳なさが込み上げてくる。迷惑をかけてしまった。これでは、友と思われていなくても無理はない。 「理人……、ぃ、い」  確かに汗をかいて気持ち悪いが、全部脱がせることはない。下着まで脱がせようとした理人に、晶は待ったをかける。  すると、理人は目を細めて今度は何故だか自らも服を脱ぎ始めた。  わけが分からないまま、晶はボンヤリと全裸になってゆく理人を眺めていた。自分より一回り大きな体は同性が羨むほどに引き締まっていて、貧弱なこの体が今更ながら恥ずかしい。  つくづく、惨めだなと思う。本当に、心底そう思う。こんな訳の分からない状態で、また理人に助けられて。同時に、悔しいとも思い始めていた。悲しいだけだったが、そこに怒りが割り込んできている。自分ばかりが悪い気でいたが、晶にだって言い分はあった。  理人は晶のことを特別扱いし過ぎだ。誰より何より常に最優先し、明らかに他と区別していた。これでは理人の特別なのではないかと誤解してもおかしくない。特に自分はバカだから、疑うことすらしなかった。  結果、これだ。心底笑えない。 「晶」  何故か覆いかぶさってくる男を睨んで、顔を背けた。  すぐそばで理人が息を呑む。晶が理人にこんな態度を取ったのは初めてなので、驚いているのだろう。完全に、固まってしまっている。 (もう、いいや)  嫌われよう。そうしよう。  少しでも好かれたままサヨナラしたいだなんて、甘いことを考えているからいけないのだ。  勘違い男が嫌悪されて、縁を切られる。いっそこの方がスッキリする。綺麗事だけの縁切りより、ずっといい。 「……理人」  図らずも舌足らずな喋り方になってしまっているのが男として気恥ずかしかったが、この際その辺は徹底的に無視する。 (存分に気持ち悪いことを言ってやる。思い知れ、理人)  我ながら捨て身の作戦であるが、他に理人を困らせる手が思い浮かばない。  面食らう理人を想像しながら、晶は自ら腰を押し付けた。腰の位置が違うので相手の腹になるが、いきなり同じ男にこんな真似をされて驚かないわけがない。  理人も例に漏れず、叱られた子供のような顔をしていたくせに、急に真顔になって晶を凝視してきた。 (ざまぁみろ)  さぞ気持ち悪かろう。そっちに興味がない限りは、冗談でもごめん被りたい状況だ。一人、晶はほくそ笑む。 「……熱くて、蒸れた。やっぱ、脱がせて……? 手、力は入んない」  それは紛れもなく事実だったが、別にそんなことをしてもらう必要はない。そもそも見られたくなんてない。  すぐそこで、喉が大きくなる音が聞こえた。  不思議に思って理人を見れば、何を考えているのか体をずらして晶の下肢に顔を寄せてくる。 (ん?)  何を、しているのか。ここは大げさに飛び退いて拒否するシーンだろうに。その後、嫌悪している理人を盛大に笑ってやり、可愛い腹癒せを完了する。それなのに、何故だ。反応が予想と違う。  恍惚にも似た表情で、いきなり晶のそこの匂いを嗅ぎ始めた。布一枚に隔たれているとはいえ、理人の鼻息が鮮明に伝わってきて仰天する。 「りっ、理人……っ?」 「本当だ……、すごく蒸れてるね」 「へ? う、うん……?」  気持ち悪い顔はどこへいったのか、理人は晶の柔らかな陰嚢の方へ鼻を寄せて匂いを嗅ぎながら唇で布を揉み始めた。 「ッ?」  重い体を起こして絶句する中、理人は赤い舌先でなんの躊躇もなく硬くなった晶のものを舐めてきた。  下着と布越しとはいえ、舐められる感覚に下肢が痺れる。  肩肘をついて体を起こしたまま、理人の肩を押し返した。  そこでハッとする。 (まさか、こいつ……俺の魂胆を見抜いて勝負を仕掛けてるんじゃ……。俺が音を上げて謝るのを待ってるのか?) 「晶?」 (やたら嬉しそうな顔してんのは、だからか! 俺が焦って泣きながらゴメンナサイするのを手ぐすね引いて待ってやがんだな……っ)  そうはいくか。変なスイッチが入った晶は、理人の肩から自身の下着に手をやり、自ら布地をずらして際どい位置まで引き下げた。 「……布、いらない。直、がいい」  明らかに勃起している晶の屹立。後ほんの少し下着をずらせば、もう亀頭の先が見えてしまう。 (どうだ! 負けねーからな! 舐められるもんなら舐めてみろ!)  高笑いしそうな勢いで晶が勝ち誇った顔でいる中、理人は鼻の付け根を指で揉んでいた。  吐き気が鼻にきたのだろうか。だが、これで勝ちは見えた。流石に彼も我慢ならなかったようだ。無理もない。それが普通だ。  晶が理人の拒否と謝罪を待っていると、嫣然とした理人の綺麗な顔面がこちらを向いた。 「ごめんね、晶」  晶は目を見開き、勝ちを得た瞬間に歓喜する。  謝った。今、確かに謝った。 「そうだよね。すぐ、舐めてあげるから」 「は?」  あっさり脱がされた下着が、キングサイズのベッドの脇に放られた。完全に全裸になった晶は、焦る暇もなく口に含まれた屹立に瞠若する。  根本から切っ先まで丁寧に舐め啜る理人。そればかりか、先ほど唇で愛撫していた陰嚢まで口に含んで舌先で転がし始めた。  何が我が身に起こっているのか理解し損ねること、数十秒。理人の寄越す快感に変な声が漏れて現実に引き戻される。亀頭の裏を舌先で擦られ、力が抜けた。柔らかなシーツに体を寝かせ、下から聞こえる淫猥な水音に羞恥と性欲を煽られる。  これ以上は駄目だと思って理人の頭に触れるが、押し返そうとすると敏感な部分を舐めてくるので指が髪に絡むだけに終わった。  勝手に膝が立ち、深い愉悦に甘ったるい声が鼻にかかる。嫌なのに、変な錠剤を飲んだせいなのかいつもより早く絶頂の波が押し寄せてきた。 「っ、ぁ……、あ、ぁ、ぁっ……ンン」  亀頭だけを吸いながら小さな頭を上下させる理人。唇の感触と舌先の柔らかさ、生温い体液の中で強弱をつけつつ愛撫されると快感の逃げ場がない。  悔しいが、気持ち悦い。認めるしかなかった。  さっきまで理人に勝つことしか頭になく失念していたが、気が付いてみれば惚れた相手に勝つ目的だけで自分のものを愛撫されている。こんな、悲しいことはない。  快楽のためなら誰でもいいわけではないのだ。中にはそんな男もいるだけど、晶は嫌だ。こういうことは、気持ちが追い付かないと意味がないと思う。 (……最初から、勝てる見込みなんて)  昔から言うではないか。惚れた方の負けだと。  どんどん快感より悲しみの方が強くなってきて、容赦ない現実に白旗をあげる。心に反応して、屹立も萎えてきた。 「晶……? 痛かった? ごめんね、男の子は初めてだから勝手が分からなくて」 「違、も……いい」 「え?」 「だから、俺の負けだって。……これでいいだろ?」  体を起こして濡れた眦を荒っぽく拭い、下着を探して辺りを見回す。  両膝を立てて四つん這いになり、キョロキョロ下着を探していると背後に気配を感じた。真後ろから腰を抱かれて目を剥く。耳の後ろに理人の唇。低く唸るような声と、押し付けられた隆起した下肢に益々目を大きく見開いた。  どうして、理人まで勃っているのか分からなかった。何を怒っているのかも理解が追い付かない。勝ったのは理人なのだから、ここは喜ぶべきだろう。 「……負けって、何? 怖くなったの?」   訊いておきながら理人は答えを待たず、晶を再びシーツに沈めた。両足首を掴み、大きく左右に開く。  あられもない格好に赤面する暇もなく、ガッチリと固定された両足に晶は自体を呑み込めなかった。 「う、そ……っ、嘘、嘘、うそ、……う、そぉ……っ」  吐息が触れたと思った。自分でも見たことのない場所に。無意識にヒクつくそこに。何かが触れたと。それは水気を帯びていて、ぬるり、と襞の一枚一枚を確かめるように舐めてくる。  チロチロと窄みをこじ開けようとする生温かいものが、理人の舌だと理解した瞬間、晶は羞恥に全身を染め上げた。 「っ……や、待って、駄目だ……てっ、こんな……っ」  これは駄目だ。絶対に駄目だ。そんなところ、舐めていい場所ではない。  涙目になって必死に理人の名を呼ぶ。けれど理人は聞く耳を持たず、唾液を絡ませて中まで舐めようと舌先をねじ込んできた。 「ぁ……あ、ぁ、や……っ」  丁寧に抜き差しされる理人の舌の感覚が、肌を粟立たせる。中の柔らかい肉をなぞるようにされて、無意識に襞が収斂した。  熱は更に悪化して、シーツを掴んできつく掴む。潤んだ視界の先では、シーリングファンが優雅に回っていた。  荒い息使いと淫靡な水音。少しずつこれは気持ちがイイことなのだと教え込まれるようで、晶は喉を反らせて淫靡に戦慄いた。  腹に触れる屹立から、体液が滲む。そこに触れたくてどうしようもなくて、晶は痺れる指先で自ら屹立を扱き始めた。  すると理人が、中から屹立の裏を押し上げるように舐めてくる。  一気に快感が強くなって、晶は夢中で屹立を扱いた。だが、上手く力が入らない。自分では必死に力を入れているのに、快感が上手く追えない。  もどかしさとじれったさに翻弄されながら、晶は甘く泣いた。
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