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必ず右手を確認してください
◆TからGへの手紙
お元気ですか。
突然お手紙を送られて、いえ、そもそも、私からの連絡に、あなたは驚いていらっしゃるでしょう。
私も、このような形であなたに接触せねばならないことが、残念でなりません。
これが決して良い報せではないと、あなたは察していらっしゃるでしょう。
甘ヶ瀬敦美のことです。
甘ヶ瀬敦美が死んでいたのです。
死因は事故だそうです。山道で、カーブを曲がり切れずに道を外れて、車が横転し、その際首を折って、死んだそうです。即死だったそうです。
ですが場所が悪く、あまり人の通らない道だったので、事故が起こったことすら誰にも気づかれず、発見されるまでにひと月かかったのです。その報せが私のところに届いたのが、二週間前です。すぐにあなたにお報せしたかったのですが、あなたとはもう十年以上つながりを絶っていて、連絡先を調べるのに時間がかかりました。
ただ、時間のかかったのはそれだけのせいではありません。
甘ヶ瀬敦美の訃報が、なぜ私のところにきたのかということを説明せねばなりません。
私はあなたと同様、甘ヶ瀬敦美とも、十年以上つながりを絶った状態でいました。これはあなたもご承知のことで、私たち三人の決まりでありますから、おわかりいただけますね。
私とあなたはいま現在、それぞれ家族がありますが、甘ヶ瀬敦美はずっと独り身であったそうです。
それは当然のことでしょう。むしろ、私とあなたのように、家族を持つことのほうが異常です。私たちのほうが異常で、甘ヶ瀬敦美のほうが正常なのです。
それで、私のところに連絡がきたというのが、死んだ甘ヶ瀬敦美の携帯端末に、私の連絡先が入っていたのです。
なぜかはわかりませんが、甘ヶ瀬敦美は、ずっと私の住所を知っていたのです。知っていたというより、私が移動するたび、それを調べていたのだろうと思います。
前述のとおり甘ヶ瀬敦美は独り身でしたから、それで、私のところに警察から連絡がきたのです。
甘ヶ瀬敦美は発見されるまで時間がかかっていたので、とっくに遺体は腐敗していたそうです。それでも一応、身元確認のためにK県にくるようにいわれました。
それで甘ヶ瀬敦美の遺体の確認と、火葬やらの段取りで、一週間は使いました。
甘ヶ瀬敦美の遺体に不審な点は一切ありませんでした。
そこだけはご安心ください。私も、なにかないか、よく遺体を注視しましたし、事故の現場も見に行きました。ただの不幸な事故です。それだけは間違いありません。甘ヶ瀬敦美は普通に死亡していました。
ただひとつ問題がありました。
甘ヶ瀬敦美がピアス穴を開けていました。
昔の甘ヶ瀬敦美はピアス穴を開けていませんでした。これは後日アルバムで確認しました。私たちが一緒にいたときの甘ヶ瀬敦美はピアス穴を開けていませんでした。
後日甘ヶ瀬敦美の家を調べましたが、家にはピアスがひとつもありませんでした。
ピアス穴があるのに、なぜ、ピアスがないのでしょう。
それがひっかかって、そのあと一週間、私はあなたの連絡先をいろんな知り合いにきいてまわりながら、甘ヶ瀬敦美の家を調査していました。
すると甘ヶ瀬敦美の風呂の排水溝にピアスが落ちていました。
それを注意深く観察すると、それにはSNSのアカウントのIDと、パスワードが刻まれていました。
書いておくので、確認してください。(ID:@☆◇θ△ pass:dX6uf1eL21)
非公開のアカウントです。甘ヶ瀬敦美が投稿したらしい写真と文章がいくつかありました。
その中で、甘ヶ瀬敦美が死ぬすこし前に投稿した写真を見てほしいのです。五月十日のものです。
この写真の右にいる、女を見てほしいのです。
この女は(――字が乱れていて読めない――)です。
顔は変えていますが、間違いありません。右手が少し特徴的なのです。
なぜこの女は甘ヶ瀬敦美の居所を知れたのでしょう。
そして私は気づきました。
警察が甘ヶ瀬敦美の端末から私の連絡先を知ったように、この女も私の連絡先を知ることはできるはずなのです。
私はいま家から離れて××県のホテルにいます。この手紙をポストに投函したあと、また別の場所に移る予定です。
あなたの居所があの女に知られるにはまだ時間があるはずです。
どうか身の回りに注意してください。右手の人差し指が中指より長い女です。厳密に言えば、2センチほど、関節ひとつぶんほど長いのです。
顔はまた変えているかもしれません。性別も女の姿とは限りません。初対面の人と会うときは必ず右手を確認してください。
Tより
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