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もうそれは、もう。
あんな、授業中に流れた校内放送を聞かなかった者はおらず、避けられ、教師からも目すら合わせて貰えぬまま、まさに地獄と化した学校で、過ごした。
だが、教師は何も言ってこなかった。てっきり怒られるか何か言われるだろうと予想していたが。何もない。
関わりたくないのか、元々、鷲見を知って受け入れたかの二択。
唯一の例外は。
「アネゴ! オレ焼きそばパン買ったんすけど、食います?」
同じ仕打ちをくらっているにも関わらず、このテンションである。
何が楽しいのかニコニコと鼻歌までだ。
「……いらない」
「そっすか! 他は何か食います? オレ、すぐ買ってきますよ!」
休み時間ごとにこういったやり取りを交わしている。しんど。
それを引き気味に眺める周囲。もちろん、ちひろもあっち側だ。つら。
そんな絶望を放課後まできっちりこなしたわたしは、犬のように懐いて離れなくなった不動と帰路も共にしていた。
「アネゴ、帰ったら風呂行きましょうよ!」
「うん、そうだね」
「オレ、マリカー持ってるんす! アネゴは好きっすか?」
「うん、そうだねー」
「しゃ! じゃあ一緒にやりやしょう!」
もう今日は疲れた、と適当な返答にも不動はめげない。犬かな?
不動と数分後に落ち合う約束をし、部屋へと階段を上がる。
疲れた、もう寝たい。現実なの、これ。夢じゃない? とモンモンとしている。
「いっそ転校する? ははっ」
そんな状態でドアノブを捻った先に――――矢吹だ。ただ…………いつもの矢吹ではない。
「矢吹!? な、え? な、なに、どうしたの、その顔!」
綺麗な顔を盛大に腫らした矢吹は、変わらず笑みを浮かべている。
これ、見た感じじゃ、確実に不動より重症だ。
頬は腫れ、切り傷も無数にある。鼻や口の端からは血を滲ませ、とにかく、もう重症だ。
「おかえりなさい、咲子さん」
「あ、ただいま……じゃなくて、矢吹、どうしたの!」
「これですか? ちょっと組長と揉めまして……僕も組長殴って出てきました」
だから一緒に住めます! と楽しそうに言うものだから、理解が追い付かない。
「お、お父様に逆らったの?」
あってはならないこと。これはカタギじゃない人間にもわかる、組長を殴る舎弟などいない。
上司には極力逆らわない。縦社会の常識だ。
それなのに矢吹ときたら……。
「はい! ちょっと僕の聞いていた内容と、話が違いましたので」
また、耳鳴りがした気がする。
とにかく手当てだ。そこには何故か喜ぶ矢吹を座らせた。
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