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一緒に住むことにしたので、改めて物件探しをしていたのだけれど。
「咲子さんはお風呂好きだから、こっちの浴槽が良い」
だとか
「咲子さんは料理をしてみたいと仰っていたので、ここの方が良い。それに、一人部屋はこのくらいの広さが咲子さんは落ち着くと思うので」
などと、それはそれは、よく把握していて、わたしよりも忠実に、かつ現実的に考えられていて、結局わたしはイエスマンになっているだけだった。
「では、明日には僕が下見して、決めてきますね。咲子さんは学校、頑張ってください」
「え、ええ、ありがとう」
「では、もう寝ましょうか」
「え、矢吹、帰らないの?」
まさか、泊まるつもりなのかと尋ねれば「こらから一緒に住むんですから、変わりませんよ」と笑った。
なんだか思惑通りになっているような気もしたけど、あまり考えないようにして、その日は寝た。
次の日には不動といつも通り登校した。不動はやはり矢吹を気にかけているみたい。
「不動、矢吹と何かあった?」
「え!? あ……その」
不動は困惑した表情を見せてから、頬を引きつらせながら笑った。
「まじ、こえーっす、矢吹さん」
「矢吹にまた怒られたの?」
「いや、怒られたってよりは、牽制というか……とにかく、オレが悪かったんす! 空気の読めねえ、間男だったんすよ、オレ。へへっ」
「……間男?」
いつ、誰の間男に不動はなったのだろうか? 全くわからないが、何か不動は吹っ切れたような、どや顔をかましていたので聞き返すのもスルーされてしまった。
何だか矢吹が来てからこんなのばっかりな気がするな。
校門前でたまたま、ちひろと目があったものの、すぐに逸らされてしまう。
周りの生徒もわたしを腫れ物のように扱う。視線を感じるものの、話しかけてくる者はいない。
「はぁ」
やっぱり、鷲見に産まれたわたしに、友達は高いハードルなのかもしれない。
当たり前だが、不動と学年が別なので、授業を含め、学校生活の大半がぼっちだ。ぽつん、と机に座っている。
周囲でひそひそ噂されている気もする。
これが、鷲見でなかったら。きっといじめに近い形だったのかもしれないが、ニュースでも取り上げられる有名な組なのもあって、近づいてくる人もいない。
「……放課後に買い食いしてみたいなあ」
友達と。ちらっとスマホを開けば、メッセージが。今も好きな魔法少女オタ友がSNSにはいる。が、現実で会うのは勇気がいる。
ネットとリアルは違うし……はあ。
ため息と共に不動と下校する。
「咲子さん……そんな、暗い顔しないでください」
「ごめん、なんか疲れてるのかな…………そういえば、不動も引っ越すでしょう? 一緒に住む?」
「え!?」大袈裟に驚いた不動は、すぐに真っ青な顔をして「オレなんかが行ったら殺されますよ……今度こそ」と首を振る。
「じゃあ、不動はどうするの?」
「……戻ってこいって言われましたし、鷲見に戻ります」
「えっ? 矢吹が嫌ならさ、不動もお隣さんとして、住んでくれないの……?」
一緒に登下校出来なくなるじゃないか。そう、しょぼくれたように言えば、不動は笑って見せた。
「鷲見にいて、状況把握して、咲子さんにはお話ししますよ! スパイとかも夢だったんす! それに、オレも……学校では咲子さんと話したいっす」
「不動……うん、そうだね! 学校では浮いている者同士、友達いなくなっちゃったもんね!」
「ハハハ」
乾いた声を上げる不動に、わたしも自分から言ったとはいえ、寂しくなる。
駅へ着いたとき、不動の顔色がサッと曇った。
「不動?」
その視線の先にいたのは────矢吹。
「おかえりなさい! 行きましょう、咲子さん!」
満面な笑みを浮かべながら走ってくる矢吹。
「あ……じゃ、じゃあ、また学校で」
頑張って笑い、去っていく不動。
何かどうしてこんな空気になっているのか。ふたりの仲がわからない。上司と部下ってこんな感じなのかな。
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