今日から高校生

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今日から高校生

 やはり、距離があるぶん、電車に乗っている時間が長かったが、おかげでソシャゲのレベルアップが進んだ。  ここで本や音楽でも聴いていたなら、姉達のようになれるのかもしれない。どうにも、姉達は陽キャ、わたしはオタク気質なところがある。  駅から学校まで迷わずに来れたが、親子が多い。入学式だもんな、みんな、親と来るよね。  中にはすでにカップルがいるらしく、前方の座席で頭をくっつけて校長先生の話を聞いていた。  と、友達できるかな? 今さらだが、ドキドキしてきた。友達など一人もいなかったことから、友達の作り方もわからないわたしは、ネットでひたすら調べて来たのだ。  は、話しかければ良いのかな……なんて?  それに、あれだけ調べたにも関わらず、結局は気付いたら友達になっていた。てきな回答が多くて、あまり参考にならなかった。  友達は無理して作るものでもない、みたいなのもあったし、全くもってわからないまま。  そうこうしているうちに、入学式は終わり、教材を買う時間に。  ん? 教材? げ、しまった。忘れていた! お金の持ち合わせもそんなにないよ……どうしよう。  明日でも良いのかな?  確認しようにも、周りは個々に話しをしていて、声を掛けて良いものか。タイミングもわからない。 「どうしました?」  背後から声をかけられて、喜んで振り返る。救世主が現れた! この人と友達に――――  髭を生やし、深く帽子を被っていてよくわからないが、男性であることは間違いない。それも、誰のお父さんだろう、というような風貌。一瞬わからなかったし、本気で誰か生徒の父親だと思った。  だが、その手には見覚えのある、一眼レフ……と、真新しい物を首から下げている。まさか。 「……矢吹?」 「あれ……バレちゃいました?」 「……来ないでって言ったのに」 「あの、ちが、違うんですよ。困っていたみたいだったので……あ、でも、僕はもう仕事は終わりまして」 「……近づかないで」  もし誰かに見られでもしたら、大変だ。こういことは慎重にしなくてはならない。一瞬の油断が、友達を無くすことになるのを、わたしは知っている。 「あー……でも、咲子さん。教材、買わなくちゃ。お金、忘れたんでしょう。僕のをあげるので、買って来たほうがいいですよ」  コソコソっと周囲に気を遣いながら、すう、と黒い縦長の財布を視界に入れられる。 「で、でも……」 「ほら、教材を買う所には、生徒しかいませんし。お友達が見つかるかも」  ぱっと見上げれば、優しそうに目を細めた矢吹。  知っていたのね。わたしがずっとこの場で友達をつくろうとしていたのを。  前方に目を向ければ、教材購入に群がっているのは生徒ばかりで、少し離れたところから親は眺めている。確かに、話しかけやすいかも。 「……ありがとう」  頷く矢吹から財布を貰い、生徒の群れに近づく。  ど、どうしよう。思ったよりも生徒同士はすでに会話をしていて、わたしは立ち尽くす。もう、グループとか出来ていたら嫌だな。 「ねえ、貴女、もう教材は買った?」  肩を叩かれ振り返るとふわふわ髪の美人な女の子がいた。 「え、あ、わ、わたし?」 「貴女よ。お名前は? 私は神谷ちひろ」 「わ、わたしは鷲――――じゃなかった。さ、咲子」 「よろしく、咲子。教材はもう買ったの? 私はまだだけど、どの教材を買えば良いのか……恥ずかしいけれど、話をまともに聞いていなかったの」  うふふ、と笑うものだから、わたしもつられる。 「ち、ちひろちゃんは、進学コース? それとも特進? わたしは進学だから、覚えているのは進学の教材だけだけれど」 「ちひろで良いわ。私も進学よ。教えてくれる?」 「う、うん!」   どうせなら一緒に買おう、と話しているうちに、連絡先も、といった具合に、とんとん拍子に進んだ。  う、うおー! 人生初の連絡先交換よ! 「これからよろしくね……そうだ。私はお母さんと来ているの。咲子は?」 「あ、えっと……」 「ずっと気になっていたけれど、あそこで見ている人、お父さん?」 「え」  指を差されて、それを辿れば、明らかにわたしを凝視する矢吹。それどころか、時折、自慢のカメラを交互に向けている。 「……教材買っている姿まで撮るなんて。よっぽど可愛がられているのね」  ちひろは気にしていないのか、笑っている。良かった。 「そ、そうなの。困るよね」  あはは、と苦笑いでなんとか乗り越えた。  ちひろは教材を買い終わると「じゃあ、また明日ね!」と手を振ってきた。  これが噂の友達とするバイバイ、というやつ?! と、緊張しながら、人生初の手を振った。友人に。この出来事はしっかりと胸に刻まれた。
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